児童相談所(児相)が一時保護した子供3人を連れ去ったとして、父親に未成年者誘拐罪などで有罪判決が下された事件で、山梨県警が親子の居場所を突き止めた後、強制捜査に乗り出すかどうかの判断に苦慮したことが、関係者への取材でわかった。最終的に「子供を守るにはほかに方法がない」として父親の逮捕に踏み切ったが、一時保護を巡る対応の難しさは全国共通の課題だ。(小山海風)
甲府地裁の判決によると、父親は今年3月2日夜、県内の児相の敷地に侵入。約3か月前から一時保護されていた18歳未満の子供3人を居室から連れ出し、京都府などのホテルで約2か月にわたって寝泊まりさせた。
横山泰造裁判長は「子供に十分な生活環境を提供できる見込みもないのに、とにかく一緒に暮らしたいという身勝手な動機から実父の立場を利用して連れ去った」と指摘。「心身の健やかな成長に責任を負う親権者の取るべき態度ではない」として父親に懲役2年、保護観察付き執行猶予4年(求刑・懲役2年6月)の判決を言い渡した。
捜査関係者によると、児相から連絡を受けた県警が捜索を開始。親子が見つかった際の対応も併せて検討したが、県警内では議論が分かれた。子供の無事が確認されたことから、父親と話し合って説得すべきだとの意見もあった。
しかし、以前に児相が一時保護をしようとした前日、父親が子供を連れて逃げ出したことがあったことなどから、「強制捜査に踏み切らざるを得ない」との結論に至った。県警は親子が県外にいることを突き止め、5月に父親を逮捕した。捜査幹部の一人は「子供たちの将来を最優先に考えた」と話す。
現行制度では、子供への虐待などが疑われる家庭を把握した場合、児相は親の意思にかかわらず子供を一時保護する権限がある。ただ、親が反対するケースが相次いでいることから、厚生労働省は妥当性を裁判所が判断するといった新たな制度案を検討している。
厚労省の社会的養育専門委員会で委員を務める日本社会事業大の宮島清教授(子ども家庭福祉)によると、一時保護の後、子供が自ら児相を逃げ出すケースもある。安全を目的とした保護でも、家族や友人と離れ、見ず知らずの場所で制限がある生活をすることは、子供の心身に大きな負担となる。一時保護は親や子供の生活に大きな影響を及ぼすため、児相職員の悩みも大きいという。
宮島教授は「環境改善などで子供の負担を減らし、司法が子供や保護者の意見を聞いて一時保護の適否を審査する仕組みが必要だ」と指摘する。