【紀州のドン・ファンと元妻 最期の5カ月の真実】#126
野崎幸助さんが亡くなった2018年5月末以降、事件は世間の注目を浴び続けてワイドショーは連日報道する事態となった。
「55歳もの年の差婚から間もなく不審死を遂げた事案ですからね。関心が高く数字が取れるので、この状態がずっと続く可能性もあります」
知人の民放プロデューサーは興奮気味に話した。
実際に当時はトランプ米大統領と北朝鮮の金委員長との電撃会談や災害報道もあったが、ドン・ファン事件は夏すぎまで毎日のようにテレビで流され、実情を知らないコメンテーターと称する人たちが適当なことを言っていた。
この頃のワイドショーはめちゃくちゃだった。
「ここがSさん(早貴被告)が通っていた新宿のホストクラブです」
「情報によると家政婦(の木下さん)が暮らす六本木のマンションに髪の長い若い女性が訪ねてきたというんです。どうもそれがSさんではないかと」
それを見た早貴被告は、「(新宿の)こんなホストクラブに行ったこともない」「木下さんの家に行ったこともないのに」などとテレビに向かって毒づいていたものだ。
週刊誌でも裏付けを取っていない記事が散見されていて、彼女から相談された私は大阪のベテラン弁護士を推薦した。大阪なら和歌山から遠くないし、生前にドン・ファンにも紹介したことがあったからである。
■逮捕された場合は依頼をキャンセル?
だが、彼女が選んだのは別の弁護士だった。実は彼女がその弁護士と交わした書面には、彼女が逮捕された場合は手を引くという趣旨の一文があった。私はそれを見て目を疑った。顧問契約も結んでいないアプリコの存続に口を挟んだ上に、彼女が逮捕されたら仕事を放り出すというのだ。彼女がドン・ファン殺害で有罪になれば遺産を相続する資格を失うから、その時は契約を破棄するということなのかと思った。
もっとも早貴被告はこの書類にちゃんと目を通していないようで、私の指摘にもクビをかしげるだけだった。
「これはキミが逮捕されたら仕事はキャンセルします、という意味だからね。そんな弁護士と契約する必要はないだろう。その真意を聞いたらどうだ?」
私は早貴被告にそう言い、しばらく後に野崎さん宅のリビングで会った時に、「名誉毀損の件はどうなっているんだい?」と聞いた。
「着々とやっていると聞いています」
「(同じ時期に週刊誌が掲載した)爆笑問題の太田光さんの方は、もう裁判が始まっているのに?」
「……」
「キミが逮捕されたら手を引くという意味は?」
「(逮捕されたら)刑事事件専門の弁護士さんに任せたらいい、と言うので」
「おかしくはないか? 全てを一任するならキミのことを信じて最後まで代理人を務めるのが弁護士という仕事だろ?」
彼女は私の言葉にうなずいたが、状況は変わらなかった。 =つづく
(吉田隆/記者、ジャーナリスト)