3月下旬。大学入試の季節も終わり、おおよその結果が出揃ったところに、聞き捨てならない話を耳にした。
「東京都の高校授業料無償化の延長で学費が無償となった都立大で、教員たちは『さぞかし志願者が殺到し、倍率も爆増するのだろう』と今冬の入試に身構えていたのですが、無償化の認知不足や立地、専攻マッチングの問題もあってか、全体の志願者の伸びは例年の1.2倍強程度で、爆発的な人気とはならなかったんです」
えっ。無償で大学へ通えると聞いたら、そりゃ志願者殺到に違いなかろうと思うのが人情というものだが、学生たちはそうは判断しなかった、ということなのだ。もちろん無償化初年度ということで、倍率急増を警戒し敬遠したということも十分に考えられる。
だが「ワンチャン」的な腕試しでも志願しなかったというのは、そもそも受験する子どもの絶対数が圧倒的に少ない時代ならではなのかもしれない。
そうなのだ、現代の大学受験は、40代や50代以上が経験した受験戦争のような「落とすための試験」だらけのラットレースには、もうならない。つまりそれだけ「子どもがいない」のだ。
いま日本で議論される社会問題が、少なからず急激な少子化による社会変容の影響した結果であることは言うまでもない。そして出生率の低下や少子化の原因の一つとして「子育てコストへの心理的抵抗が大きな障壁となっている」は定説である。
これを受けて、公立校の給食無償化や私立高校の授業料無償化など、教育関連費の無償化トレンドが国レベルでも地方レベルでも急激に広がった。これらは現役子育て中の家庭から大いに歓迎され、特に東京都でいち早く教育関連費の無償化を進めた小池百合子知事などは磐石の支持を得ており、それは昨夏以降の選挙結果で火を見るより明らかだ。
しかし一方で、それは東京都のような北欧一国の予算規模に相当する巨大なメトロポリタンであるがゆえに可能な施策であり、地方とは条件が違うとの指摘もある。財政基盤が比較的弱い自治体では理想と現実のギャップを埋めるための痛み、副作用も生じている。
例えばもともと公立高のレベルが非常に高く、私立高は角度の違うニーズを埋めるものとして発展した大阪では、家庭の所得レベルを問わずに一律で私立高の学費が無償化されたことで、府立高離れ、定員割れが生じた。その一つである大阪府立寝屋川高校は私の卒業校であり、学区では難易度で2位にある伝統進学校でもあるため、大阪ではショックが広がっている。
授業料以外に、給食費の無償化でも大阪は悪名高い。もちろん地域や学校によって状況はさまざまではあるのだが、年間予算が一定なのに急激なインフレ局面にある現在、材料費高騰で非常に乏しい給食内容へ陥ってしまうケースが多々報告され、「子どもたちがおなかをすかせて帰ってくる」「こんなことなら無償じゃなくていい」と保護者たちから不安不満の声が上がる。安くてお腹いっぱい食べられるのが誇りである食い倒れの街、大阪ならではとも言えようか、幼い子らに食べ物の恨みを植え付けてしまうのは望ましくない。
都立大の「肩すかし」や、地方高校の競争力低下などの事例が示唆するのは、子育て層や子どもたちは無償であることに感謝はするものの、どうやら進路や住む場所などの意思決定は「無償」だけでは動かされないということだ。
そしてこれは出産の意思決定にも通じる。女性は、医療費やその後の教育費が無償ですよと聞いて子どもを産むだろうか。二人目以降の出産、つまり1を2に、2を3にする安心材料の大きな一つにはなりうるけれども、ゼロを1にするかというと難しい。
筆者自身も、無償化によって子育て層の経済負担が軽くなることには大賛成だけれど、果たして無償化が子育て関連の社会問題を全て解決する特効薬かというと少々疑問なのだ。
人手不足倒産が続出、失われた30年の末の賃金伸び悩み、そこに世界的なインフレトレンドで物価高。日本の消費者を取り巻く現在は踏んだり蹴ったりだ。子育て層にとって教育関連費の無償化が大歓迎であることに疑いはない。だが膨らむ財政的持続可能性の問題、そして無償化だけでは解決しない教育の質や魅力の問題がある。
教育無償化は子育て世帯への直接的支援としてもちろん有効だけれど、少子化問題の根本解決には、若者の所得向上、働き方改革、価値観の変化など多面的なアプローチが必要だ。
特に教育無償化政策は、「一度導入すると政治的に撤回が困難である」という不可逆的な性質を持つ。いったん無料になったものにまたお金を出してくださいと言われた時の消費者の抵抗は、ラーメン屋の替え玉無料がなくなった時の顧客の嘆き悲しみようと怒りっぷりをSNSで検索すれば一目瞭然である。
まあそれはだいぶ卑近な例ではあるけれど、有権者感情としては切実だ。無償化を推し進める政治家には「ここから先、永遠に無償」を約束しなきゃいけないくらいの厳しい覚悟が問われていることに、本人たちは気づいているだろうか。
この前提の下で持続可能な制度設計を考えるなら、「無償化」という看板は維持しながらも、その内実を微調整していく方策が現実的なのだろう。
具体的には、「基礎的な教育費」の定義見直しや、地域・民間との連携強化、放課後の特別活動・専門性の高い選択科目・特別なキャリア支援プログラムなど付加価値サービスの有料化が考えられる。修学旅行や特別活動費などは所得に応じて補助する方式にしても受け入れられやすいだろう。並行して、少子化に合わせて教育関連コストを最適化するための学校統廃合や教員の兼務、デジタル化による教材費削減も避けられない。
財政面の専門家からは、目的税や特定財源の創設、給付と負担の再設計、成果連動型の予算配分、段階的な支援対象の優先順位付けなども挙げられている。これらの方策を複合的に組み合わせることで、財政負担を抑えつつ教育の質を維持・向上させる道筋が見えてくるのだという。
令和の「少ない子どもたち」のために、おそらく学校の定義、概念自体が変わるのだろう、それは人数だけはやたらといた上の世代が考えるものとは別物になっていくのだろう、と筆者などは予感している。
教育無償化の持続可能性を追求する過程で、「学校で提供すべきサービスとは何か」を考えなければいけなくなるからだ。教育のコア機能と付加的機能を切り分け、付加的な要素に関しては統廃合やアウトソースを進めていく。今まで当然学校にあるはずだったものがなくなってスリムになり、その一方で、今までの学校にはなかった機能がいっぱい付け加えられるかもしれない。
例えば教員の過労問題解決のため、部活動の地域移管や外部委託が進み、学校の垣根を越えた活動が増加している。筆者が先日話をした、長野県出身だという20代後半の若者は、「実家に帰ったら、中学の野球部が解散してなくなってたんですよ」とぼやいた。「地元の連れもみんな、寂しいなぁって。でも中学自体がもう、1学年1クラスで5人くらいで、激減なんですよ。それで隣町の中学と統合して、部活は両校合わせたサークルみたいになって」
伝統的な「うちの学校の野球部」といった帰属意識から、「地域の野球チーム」という新たなアイデンティティーへの転換。子どもは少ないが高齢者は多いということで、高齢者の集う場所としての機能が学校建築に付加されることも想像に難くない。地方では特に、維持管理の難しい児童館や図書館などと、保育園や高齢者のデイケア、そして学校や子ども食堂が1箇所に固められた、「巨大な多世帯同居住宅」みたいな新しい地域のハコモノが誕生していくのではなかろうか。
こうした変化は、学校や生徒、教員、保護者、そして地域のアイデンティティーに関わる大きなパラダイムシフトを確実にもたらす。それが、教育が時代に合わせて変わるということなのだ。
この変革を円滑に進めるためには、教員の専門性の再評価も重要になる。「先生とは、どこからどこまで、何をする人なのか」という再定義。ということは、それを補う存在や、分野横断的に働くプレーヤーとして、今は存在しない新しい職業がいくつも生まれるかもしれない。
世界の国々の中でも先陣を切って少子高齢化の道を驀進する日本、それは一つの社会実験場だ。子どもがいない国の学校は、もう今までの学校でありうるはずがない。地域産業や自治体、地域住民など多様なステークホルダーが参画する、独自の配合の教育ガバナンスへと進化していかなければならない。
少子化と財政制約という二重の課題に直面する日本の教育機関は、教育機会の平等性や社会的一体性といった日本社会の価値観と調和した「日本型」とも呼べる新たな教育モデルを生み出す可能性がある、と考えれば、日本の教育って実はいま最高に面白い分野なんじゃないだろうか?
知日家の外国人や、海外で暮らした経験のある日本人が痛感すること、それは「日本らしさや日本人らしさとは、日本の教育のたまもの」だということである。世界で称賛される日本の豊かな味覚と食センス、そして日本特有の礼儀正しく丁寧で、良くも悪くも協調性にあふれた思考やサービスは、日本の教育で大事に培われるものなのだ。
義務教育に続く高校の無償化や給食の無償化で、そういった「丁寧な食」や「丁寧な物腰と共感・協調力」を教える日本的教育が国家のブランドとして強化され、日本型モデルとして認識されて世界の人々を惹きつけていくのは、今後の日本が生き残るすべとなるはずだ。
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(コラムニスト 河崎 環)
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【大雪情報】東京都心は冷たい雨 内陸部は積雪のおそれ 本当に4月なの? 凍える寒さ〈”春”というより”真冬”〉【雪はいつ?どこで降る?】雨と雪のシミュレーション4月1日(火)~4月3日(木)/ 週間予報
【大雪に関する気象情報】発表
関東甲信地方の上空約1500メートルには山地で雪の目安となる〈-3℃以下〉の寒気が流れ込んでいます。
関東甲信地方では、気圧の谷や上空の寒気の影響で、山沿いや山地では大雪となり、平地でも積雪となる所があるでしょう。《雨と雪のシミュレーション4月1日(火)~3日(木)》は画像で掲載しています。
きょうから4月ですが〈凍てつく寒さ〉予想気温は?
きょう4月1日(火)の予想最高気温は〈東京8℃〉〈横浜8℃〉〈さいたま7℃〉など、真冬の頃を思わせる、厳しい寒さになりそうです。ただ、きょうが寒さのピークで、今週後半には寒さが緩むでしょう。都・県ごとに予想最低最高気温、週間予報を画像で掲載しています。
雨と雪のシミュレーション4月1日(火)~4月3日(木)
多摩地方の山沿いや山地を中心に〈雪〉が降り、多摩西部では山地を中心に〈大雪〉となる所があるでしょう、東京23区では〈冷たい雨〉が降り〈雪〉にはならない見込みです。その後は、次第に気温が上昇するため、〈雪〉が〈雨〉に変わり、3日(木)にかけて降り続くでしょう。画像で確認できます。
中学校教諭が残業時間「80時間超」で勤務表提出…管理職から「このままだと産業医と面談」言われ土日の出勤記録削除と訴え 学校側は指示を否定
兵庫県の公立中学校の教諭が残業時間を少なく書き換えた勤務表を提出せざるをえない状況に追い込まれたと訴えました。
兵庫県の教員らでつくる団体によりますと、姫路市の市立中学校の男性教諭(30代)は、おととし5月の残業時間が「過労死ライン」の80時間を超えましたが、勤務表を提出する際に管理職から「このまま提出すると産業医と面談することになる」などと言われ、土日の出勤記録を削除したということです。
(男性教諭)「部活動の業務に従事したという時間の記録もつけていたが、記録簿に載せないでほしいと」
学校側は取材に対し書き換えの指示を否定しています。
この団体は3月31日に他の学校でも同様の指示がなかったか県に調査を求めたということです。
愛知・一宮市の民家クローゼットから女性遺体、都内の16歳女子高生か…21歳男を遺棄容疑で逮捕
愛知県一宮市の自宅クローゼットに女性の遺体を遺棄したとして、県警は1日、同市、無職の男(21)を死体遺棄容疑で緊急逮捕したと発表した。遺体は東京都内の高校に通う女子生徒(16)の可能性があり、首や肩に複数の刺し傷があった。県警が身元や死因などを調べている。
警視庁幹部によると、女子生徒は先月28日、「インターネットゲームで知り合った愛知の友人のところに行ってくる」と母親に伝え、東京駅から新幹線に乗車。翌日午後から連絡が取れなくなり、母親から同庁に行方不明者届が出されていた。
女子生徒の捜索を進める中で、男が関係先として浮上。一宮署員が同31日夜に室内を調べたところ、2階のクローゼット内で布にくるまれた遺体を見つけた。男は遺棄したことを認めており、県警は女性が死亡した経緯なども調べる。
現場は名鉄名古屋本線新木曽川駅から南東約1・5キロで、住宅と農地が混在する地域。
「お前、どこ町だ?」と買い物中の男子中学生に因縁をつけ…3人を暴行の疑い 49歳男を逮捕 新潟・村上市
新潟県村上市のドラッグストアの店舗内で3月26日、買い物中の男子中学生3人を暴行した疑いで、49歳の男が逮捕されました。
暴行の疑いで逮捕されたのは、村上市上片町に住む無職の男(49)です。 警察によりますと、男は3月26日午後3時ごろ、村上市内のドラッグストアで買い物中だった男子中学生に対し、「お前、どこ町だ?」などと因縁をつけたうえ、男子中学生の胸ぐらをつかみ、商品棚に押し付ける暴行を加えた疑いが持たれています。 その後、止めに入った別の男子中学生に対しても、同様に胸ぐらをつかんで商品棚に押し付けたほか、別の男子中学生が「警察に通報する」などと言ったところ、この中学生に対しても商品棚に押し付ける暴行を加えた疑いが持たれています。 男子中学生は4人でドラッグストアで買い物をしていたということで、駐在所に被害を訴えたということです。 警察の調べに対し、男は「2人に対して服をつかみ棚に押し付けたことは間違いない」などと話しているということで、警察は当時のいきさつや犯行の動機などを調べています。
オカヤドカリ千匹所持か、沖縄 台湾籍2人逮捕、ペットで人気
国の天然記念物、オカヤドカリ998匹を無許可で所持したとして、沖縄県警宮古島署は1日までに、文化財保護法違反の疑いで、いずれも台湾籍で自称グラフィックデザイナー、林柏亨容疑者(29)と自称会社員、黄皓天容疑者(29)を逮捕した。逮捕は3月31日付。中国などではペットとしても人気だといい、転売目的だった可能性もあるとみて捜査する。
逮捕容疑は3月31日午前、宮古島市内で文化庁の許可を受けずに所持し、天然記念物の現状を変更した疑い。容疑を一部否認している。署によると、運送業者が30日、エックス線検査で発見し通報した。段ボール4箱に入っていた。
消防署から救急車盗まれる…20分後事故を起こしているのを発見、運転席には負傷した若い女性が
和歌山県の那賀消防組合は3月31日、岩出市の中消防署の車庫に駐車していた救急車が盗まれたと発表した。
発表では、被害に遭ったのは同日午前3時頃。約20分後、同市内の路上で自損事故を起こしているのが見つかった。運転席にいた若い女性が負傷しており、同組合が救急搬送した。
車内に鍵があり、誰でも動かせる状態だったといい、木下修消防長は「再発防止策を講じたうえで、職員に指導を徹底する」などとするコメントを出した。
芦屋市強盗殺人未遂の事件 中国籍男性1人が不起訴に
兵庫県芦屋市で1月、男性が腹を刺されるなどして重傷を負った事件で、実行役の男らに襲撃場所を教えたなどとして、強盗殺人未遂の疑いで逮捕されていた中国籍の男性(28)が不起訴処分となりました。
処分は3月31日付で、神戸地検は不起訴の理由を明らかにしていません。
この事件では、マレーシア国籍の男2人が殺人未遂と銃刀法違反の罪で起訴されています。
遺体は行方不明の16歳女子高校生と判明 クローゼットから若い女性の遺体 「ネットゲームの友達の家に行く」 複数の刺し傷も 愛知・一宮市
「ネットゲームの友達の家に行く」などと言って、行方不明になった16歳の女子高校生の行方を探していた警察が、愛知県一宮市の住宅で若い女性の遺体を見つけ、21歳の男を死体遺棄の疑いで逮捕しました。 その後の調べで、見つかった遺体は行方不明になっていた16歳の女子高校生とわかりました。
逮捕されたのは、愛知県一宮市木曽川町に住む無職・江口真先容疑者21歳です。
警察によりますと江口容疑者は、きのう午後11時40分頃、自宅のクローゼットに若い女性の遺体を遺棄した疑いが持たれています。
捜査関係者によりますと、行方不明届が出されていた東京都の16歳の女子高校生を探していた警察が、昨夜 江口容疑者の自宅を訪ね、女性の遺体を発見。その場にいた江口容疑者が「遺体を隠した」などと話したため、逮捕したということです。
女子高校生は先月28日、「ネットゲームの友達の家に行く」などと言って家を出たと言うことです。
遺体は布にくるまれ複数の刺し傷があり、江口容疑者は殺害についてもほのめかしているということで、警察が詳しく調べています。
自称「スーパーサラリーマン」再逮捕=悪質リフォーム容疑、ナンバー2も―無許可で高額契約か・警視庁
無許可で高額な工事契約を結んだとして、警視庁暴力団対策課は1日までに、建設業法違反容疑で、SNSで「スーパーサラリーマン」を名乗っていた清水謙行容疑者(49)ら4人を再逮捕し、新たにナンバー2の西村聖也容疑者(31)=千葉市美浜区若葉=ら3人を逮捕した。同課は認否を明らかにしていない。
清水容疑者の再逮捕容疑は2023年9~11月、東京都や千葉県などに住む60~80代の男女4人に対し、国土交通相や都道府県知事の許可を得ず、いずれも500万円以上の高額な工事契約を結んだ疑い。
清水容疑者らは契約金額が500万円未満となるように、屋根や外壁について別々に工事契約を結んでいたが、同課は同一の工事だと認定した。
同課によると、清水容疑者は自らをトップとして「清水会」と称するグループを立ち上げ、複数の悪質リフォーム会社を運営。インスタグラムで「スーパーサラリーマン清水」と名乗って派手な生活ぶりをアピールし、最大で約150人のメンバーを集め、一軒家に飛び込み営業をさせていた。
西村容疑者は「専務」と呼ばれており、同会ナンバー2として清水容疑者を補佐していたとみられる。同会は24年2月までの5年間で約100億円を売り上げ、うち4分の1程度が清水容疑者や西村容疑者ら経営陣の報酬などに充てられていたという。
これまでにリフォーム代金の詐取未遂容疑などで逮捕された同会のメンバーは14人に上る。同課は、グループが組織的にリフォーム詐欺を繰り返していた疑いもあるとみて、全容解明を進める。 [時事通信社]