経営が厳しい医療機関から、物価高への対応や賃上げのために大幅な引き上げを求める声が上がっていた診療報酬。2年に1度の改定で今回、12年ぶりのプラスで決着しました。病院側からは期待する声が上がりますが、国民負担への影響はないのでしょうか?
藤井貴彦キャスター
「24日、政府は来年度の診療報酬改定について、全体を2.22%引き上げることを決めました」
小栗泉・日本テレビ報道局特別解説委員
「診療報酬の引き上げで病院はどう変わるのか、そして医療を受ける私たちの負担は増えるのでしょうか?」
「診療報酬は保険料・税金・自己負担で賄われていて、病院やクリニックなどが診察・治療の対価として受け取るものです。医師や看護師の人件費などにあたる『本体』と、薬の値段など『薬価』で構成されていて、2年に1度改定されます」
「この診療報酬をめぐっては、経営が厳しい医療機関から物価高への対応や賃上げのために大幅な引き上げを求める声が上がっていて、今回は12年ぶりにプラス改定で決着しました」
「これを受けて日本医師会の松本会長は24日、会見で『非常に前向きにとらえている』と話しています」
藤井キャスター
「こうなると医療現場の環境が良くなることを期待したいのですが、どうでしょうか?」
小栗委員
「実際にそれが期待されている病院もあります。赤字経営となっている東京科学大学病院を今年10月に取材した時の映像があります。建物の至る所が壊れたままになっていたり、血管の撮影などができる機械を耐用年数10年を超えても使用したりしているといいます」
「今回の改定について同病院の藤井靖久病院長は、『老朽化した医療機器や設備についても、緊急度や安全の観点から計画的に更新していく道筋が見え始めた』と話しています」
小栗委員
「ただ昨年度、病院の約7割が赤字だった一方で、クリニックは約6割が黒字でした。医療機関の規模や形態によって収入状況も違います」
「このため今年11月には、保険料を納める側の健保連なども『診療報酬にメリハリをつけるべきだ』といった要望を厚労省に出していました」
「今回の改定では、診療報酬のうち物価対応分・入院時の食費・光熱水費などは、クリニックや薬局などよりも病院への配分が高くなっています」
藤井キャスター
「医療機関は私たちにとって必要なものですし、もっと増やしてほしいなという気持ちもある一方で、私たちの負担に影響があるのかは気になるところですね」
小栗委員
「診療報酬は1%引き上げるごとに5000億円の財源が必要だとされています」
「(財源は)今回の改定では少なくとも1兆円以上となりそうですが、厚労省は賃上げによって働く人の給料が上がっていて、保険料全体としては増加しているので、実質的に国民の負担率は上げない形で財源を確保できるとしています」
「ただ、日本総研の西沢和彦理事は次のように話しています」
西沢理事
「このまま診療報酬が上がり続ければ、いずれ私たちの負担も上がると思う。特に若い働く世代の負担が増えてしまうので、どんどん診療報酬を上げればいいというものではない」
「在宅医療の整備によって入院日数を減らしたり、医療費を抑制したり、病院の人手不足の対策につなげたりするなど、医療全体の改革も必要なのではないか」
(12月24日『news zero』より)
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茨城・城里町の養鶏場、「9羽の鶏がまとまって死んでいる」…鳥インフルの感染確認、97万羽の殺処分を開始
茨城県は25日、同県城里町の養鶏場で、採卵鶏から高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5亜型)が検出されたと発表した。県はこの養鶏場で飼育されていた約97万羽の殺処分を始めた。農林水産省によると、養鶏場で感染が確認されたのは今季10例目で関東地方では初めて。
県によると、この養鶏場から24日午前10時頃、「鶏がまとまって死んでいる」と連絡があった。県が10羽を簡易検査したところ、すべて陽性で、遺伝子検査の結果、25日朝に感染が確認された。
24年の羽田衝突事故、運輸安全委が異例の2回目経過報告
[東京 25日 ロイター] – 東京・羽田空港で2024年1月に起きた海上保安庁と日本航空(JAL)の機体衝突事故の原因を調べている運輸安全委員会は25日、2回目となる経過報告を公表し、海保機機長の労務管理や疲労などを分析対象に追加したと明らかにした。
運輸安全委員会が発足した2008年以降、事故調査を巡って2回目の経過報告を出すのは今回が初めて。海保機の搭乗員6人のうち5人が死亡したことや、衝突した両機とも大破して証拠が少ないこと、エアバスなど外国の機体メーカーが関わっていることなどで調査が長引いているという。
運輸安全委員会は24年12月に1回目の経過報告を発表。その後、夜間に乗務することもあった海保機機長の疲労度合いや労務管理、機長が事故発生前30日以内に同型機に乗務していなかったこと、事故を再現して視認性の検証実験を行ったことなどを分析対象に加えた。最終報告の公表時期は未定。
海保機とJAL機の衝突は24年1月2日夕方に発生。前日に地震が発生した能登近くの新潟航空基地へ救援物資を運ぶため羽田空港の滑走路上で離陸を待っていた海保機に、着陸したJAL機が衝突した。
「日本版DBS」のマーク公表 性犯罪歴確認の事業者表示
こども家庭庁は25日、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」に取り組む事業者が掲示できるマーク「こまもろう」を公表した。大きな目をした「フクロウ」をモチーフに「子を守ろう」を掛け合わせた。教育や保育の現場で活用してもらい、「社会全体で子どもを性暴力から守る」という制度の理念を広く共有するのが目的。制度は2026年12月25日に始まる。
性犯罪歴の確認と安全確保措置を義務付けられる学校や認可保育所、幼稚園などの法定事業者用と、国の「認定制」の対象となる民間事業者用の計2種類のマークを用意。マークを掲示することで、保護者らの信頼が得られる効果も期待される。
〈生成AIで同級生を裸に〉「性的ディープフェイク」被害が過去最多、懸念される低年齢化「なかには小学生も」
生成AIなどでわいせつな偽画像を作成する「性的ディープフェイク」問題。警察庁によれば、18歳未満からの被害相談が今年1~9月の間で79件あり、そのほとんどが同じ学校の児童や生徒が関与していたと発表。
【画像】全国で初めて生成AI作成画像所持で児童ポルノ禁止法違反で立件された元小学校教員
加害者も被害者も同じ児童や生徒であるという衝撃の事実だが、79件の内訳は中学生からが最多の41件で、高校生は25件、さらに小学生が4件だった。実際にこれらの事案の相談を受ける弁護士によれば、スマホと児童や保護者らを巡る現代の課題が浮上した。
学校行事のアルバムに載っていた同級生の写真を生成AIで性的な画像に加工
昨今の事件で「性的ディープフェイク」問題が最も注目されたのは今年3月に逮捕・起訴された名古屋市の元小学校教員・水藤翔太被告(34)など現役教師の盗撮グループ事件だった。
なかでも水藤被告が所持していた画像にはAIのサイトで作成した児童の裸もあり、生成AI作成画像所持で児童ポルノ禁止法違反として立件されるのは全国初だった。
これまで明るみになっていたのは、加害者は成人であり、被害者は児童や生徒という構図だった。しかし、今回の警察庁の発表で被害者と加害者のどちらも生徒や児童というケースも増えている状況が明らかになった。社会部記者は言う。
「警察庁は注意喚起のために事例を公表しましたが、ある加害側の男子中学生は同級生の女子生徒がSNSに投稿した画像を生成AIで裸の画像に加工し、他の同級生に販売していたようです。
また、別の事例の男子中学生らは学校のタブレット端末から、行事のアルバムに載っていた同級生の女子生徒の写真を生成AIで性的な画像に加工。複数の同級生にグループチャットで拡散したとして補導されています」
拡散が拡散を生み…名誉毀損で補導される事例もある
学校や教育現場に関連した事件を扱うレイ法律事務所の髙橋和典弁護士によれば、生徒や児童らによる性的ディープフェイク事件の特徴は「友だちに拡散する傾向にある」ことだ。
「だいたいは加害側が男子生徒で女子生徒が被害者であるケースがほとんどですが、男子生徒が同級生や学校の女子生徒のInstagramやTikTokの写真を生成AIで裸にしたり、アダルトな動画に顔を挿げ替えたりして男子生徒同士のLINEグループに拡散します。
そのグループから他のグループにさらに拡散され、その画像がXなどに投稿されてしまうケースもありました」
こういった事案は「月に1、2件は相談がきて、ここ2年ほどで約30件の相談を受けた」という。さらに特徴として「公立校や私立校や学校の知的レベルに問わず起こる事案」なのだとか。
「性的ディープフェイクは外的痛みが伴わない被害であるため、知的レベルの高い生徒や児童であってもその被害の共感性に欠けるんですね。かつて名門私立校などに通う生徒同士による相談事案もありましたが、親御さんも『まさかうちの子がそんなことをするはずがない』という誤認をしていることも多いのです。
しかし性的ディープフェイク事件による名誉毀損で補導される事例もあるので、生徒や保護者のネットリテラシーの見直しが急務であると言えます」(前同)
保護者の認識の甘さについて歯痒さを感じる教師も
こうした性的ディープフェイク問題を教師たちはどう対処しているのか。
都内の公立中学の女性教諭によると「基本的にスマホは学校に持ち込み禁止としているため、その問題に学校が関わることはないが、指導せざるを得ない状況に見舞われることもある」という。
「実は本校でも中学1年生の女子生徒が校内にスマホを持参し、職員の目の届きにくいトイレで記念撮影してInstagramのストーリーに投稿するという事案が起きました。別生徒が申告してきたことで発覚しました。
私は躊躇いながらも『あなたたちの顔にAIで他人の裸の体をくっつけられネットに挙げられる可能性もある』ことを指導しました。女子生徒に裸という言葉を使うのは勇気がいりましたが、気軽にSNSに写真を投稿するという行為がどれだけ危険か具体性をもって話さないと伝わらないと思ったからです」(前同)
女性教諭は生徒に指導したその日に保護者にも連絡を入れたが、保護者の認識の甘さについても歯痒さを感じたそうだ。
「その保護者は『放課後であればストーリーに投稿しても問題ない』という認識でいたことに愕然としました。学校であれ、放課後であれネットに画像があがることが生成AIの素材になり得るわけで、未成年のネットの画像投稿は十分に気をつけなければいけないということを伝えました。家庭ごとに反応の違いこそあれ『それは知らなかった』と感謝されました」
前出の髙橋弁護士によれば「子どもにスマホを持たせた段階で、親子で画像の取り扱いにおける配慮について話し合うべき」と言う。
「男子高校生くらいにもなると彼女との性行為を、相手女性に同意もなく無断で撮っているケースもある。それらを同級生のLINEグループに拡散する場合もある。
画像にして共有した段階ですでにデジタルタトゥーです。教育現場はもちろん家庭でも性的ディープフェイク問題や画像の取り扱いについて話し合う必要があると思います」
警察庁によると、性的ディープフェイクによる名誉毀損やわいせつ電磁的記録媒体陳列などの疑いで、今年1月から9月にかけて少年6人が補導されたという。
性的画像の公開はもちろん生成AIで加工するという行為やそれらの公開は、被害者に消えない傷を残す許されない行為だ。AI利用の道徳教育の改革急務が求められている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
「警察官を脅して拳銃を奪いたいと思った」公園でナイフを所持し自ら「刃物を持った男が公園をウロウロ」と通報、銃刀法違反容疑で自称18歳の男を逮捕 札幌市中央区
24日正午すぎ、札幌市中央区にある公園で、正当な理由がなくナイフを持っていたとして18歳の男が逮捕されました。
銃刀法違反の疑いで逮捕されたのは、住所や職業、年齢などすべて自称の札幌市中央区に住む18歳の無職の男です。
男は、24日午後0時20分ごろ、札幌市中央区南8条西9丁目の公園で、正当な理由がないのに刃体の長さが6センチを超える、刃渡り約12.5センチのナイフ1本を携帯していた疑いが持たれています。
警察によりますと、男は自ら「刃物を持った男が公園をウロウロしている」と110番通報し、駆け付けた警察官が、男をその場で逮捕しました。
その際、警察は男に刃物を捨てるよう説得しましたが、男は応じなかったため、警察官が男を取り押さえたということです。
公園の近くにいた目撃者によりますと、「刃物を降ろせ」と男を説得する警察官の声が聞こえたということです。
当時公園には、他に誰もおらず、けが人はいません。
取り調べに対し、自称18歳の無職の男は「警察官を脅して拳銃を奪いたいと思った」と話し、容疑を認めているということです。
警察は男が犯行に至ったいきさつや動機について、調べを進めています。
地下駐車場浸水で国が一部補償へ 国交省が「止水板」の故障を4年放置 三重・四日市
今年9月の記録的な大雨で、三重県四日市市の地下駐車場が浸水した問題です。車の所有者に対し、国が一部補償する方針を明らかにしました。
【画像】地下駐車場で浸水してしまった車両
地下駐車場浸水 一部補償へ
今年9月12日、四日市市では、1時間雨量が123.5ミリという観測史上最大の大雨が降りました。
地下駐車場「くすの木パーキング」には大量の雨水が流れ込み、274台の車が水につかり、大きな被害が出ました。
駐車場の一部を所有する国土交通省が、浸水を食い止める「止水板」の故障を把握していましたが、4年近く放置していたことも明らかになりました。
復旧検討委員会 川口淳委員長
「同様な地下施設においても、このような被害が二度と起こらないような未来志向の取りまとめになればと思っている」
24日、取りまとめられた「最終報告書」では、所有者と運営者は大いに反省すべきと厳しく指摘されました。
「浸水は天災ではあったものの、止水板などが適切に機能すれば、ある程度対応できた」と結論付けました。
国交省三重河川国道事務所 大吉雄人所長
「止水板の故障が被害拡大の一因に関与していたことを重く受け止め、一定額の金銭の支払いを前提に示談する方向で検討したい」
車を失った被害者が今の胸中を語りました。
車を失った男性「防げたはず」
記録的な大雨で、300台近くの車が水につかった地下駐車場の被害。止水板の故障が被害拡大の一因になったとして、国は車の所有者に一部補償する方針を明らかにしました。金額などは決まっておらず、来月に公表する予定です。
車が浸水する被害に遭った中村泰三さんが胸の内を語りました。
「値段の問題ではなくて(車には)いろんな思い出とかがあるので、非常にショックでしたね」
大雨当時、自身の車1台と従業員の車1台を止めていて、どちらも廃車になったということです。
「(当日)電話をして、地下2階は少し水が入ってきているが、地下1階は大丈夫ですという案内だったので、安心してそのまま置いてしまいましたね。起こったことは仕方がないが、防げたのかなと思います」
(「グッド!モーニング」2025年12月25日放送分より)
北海道で新聞配達中の男性がヒグマに襲われて死亡…札幌市内でも秋に起きていた“異変”→住宅街の極狭エリアに7頭が出没
「Tipping point(ティッピング・ポイント)」という言葉がある。社会学・生態学・疫学などで広く使われる概念で「転回点」などと訳されることが多い。例えば、疫病の感染拡大はじわじわと一定のペースで増えていくのではなく、ある臨界点(閾値)を越えた瞬間に非線形的な急増(感染爆発)を引き起こす――こうした急変現象を指す言葉である。
2025年、日本各地で起きているクマの大量出没は、まさにこの言葉を思い起こさせる。2025年度上半期(4月~9月)の時点で全国のクマの出没件数は2万件超。出没件数と比例して人身事故も過去に例を見ないペースで増加、環境省によると12月5日時点の速報値で209件に達し、死亡者も13人と過去最悪の数字で推移している。
特筆すべきは人身事故のほとんどが山間部ではなく、市街地で起きているという点だ。(全3回の1回目/ #2に続く )
◆ ◆ ◆
なぜクマが人里に大量出没するのか
なぜクマが人里に大量出没するのか。その背景として一般的に言われているのは、(1)クマが住む山林と人里の間にあった農地や里山など「緩衝帯」の消失(過疎化により里山を管理する人がいなくなった)(2)捕獲圧の低下(ハンターの減少や高齢化でクマを獲る人が減った)(3)“人慣れグマ”の増加(1~2を背景に「人を見ても逃げない」あるいは「人の生活圏から餌資源を得ることに抵抗のない個体」が増えた)という3つの要因である。
それに加えて今秋の大量出没の直接的なトリガーとなったのが、ヒグマにとって秋の重要なエサとなるドングリなどの大凶作だ。
こうした複合的な要因により、クマが人間の生活圏深くへと侵入しているのが今年のクマ被害の特徴である。これは本州のツキノワグマのみならず、北海道のヒグマでも同様である。
住宅街の極狭エリアに7頭のヒグマ
現在、筆者が住んでいる札幌市に「西野」と呼ばれるエリアがある。西野地区は札幌駅の西、約10kmに位置し、手稲山や三角山といった札幌を代表する山々のふもとに広がる住宅街である。地区全体の面積は9平方キロメートルに過ぎない。
ところが今年10月、札幌市郊外のこの狭いエリアに1カ月で大小7頭のヒグマが出没し、駆除されている。具体的なデータで見てみよう。
以下に掲げるのは、北海道新聞の報道記事をもとに筆者が作成した西野地区周辺で駆除されたクマの一覧である。(※カッコ内は体長、以下同)
10月9日 西区西野 箱ワナ メス成獣(1.4m)
11日 西区西野 箱ワナ オス成獣(1.5m)
13日 西区西野 箱ワナ メス成獣(1.4m)
14日 西区西野 箱ワナ メス成獣(1.3m)、子グマ(65cm)
24日 西区西野 緊急銃猟 メスの子グマ2頭(70cm、80cm)
※10月24日に駆除された2頭の子グマは、それ以前に駆除されたメス成獣の子グマと考えられる。
西野地区に住むヒグマ対策のプロ
ちなみに西野地区は現在筆者が住んでいる場所からも車でせいぜい10分ほどの距離にすぎない。連日ニュースで報じられる出没と駆除の情報に「今日駆除されたのは、いつどこに出てたクマだ?」と混乱するとともに、まるでヒグマが大挙して自分の生活圏に押し寄せてくるような感覚を覚えた。
同時に「あの人はどう見ているのかな?」と気になった人物がいる。
「野生動物被害対策クリニック北海道」代表の石名坂豪である。
「“あらまぁ、やっぱりこんな近くにいるんだなぁ”という感じですかね」
その石名坂は、この人らしく飄々とした調子で言った。
2006年から2023年まで知床半島で環境省や知床財団の職員としてヒグマ対策に携わった石名坂は、獣医の資格を持ち、網・わな・第一種銃猟免許を所持するハンターでもある。いわば“ヒグマ対策のプロ”である石名坂が2023年に独立し、鳥獣対策コンサルタントとして事業所を立ち上げたのが、まさに札幌市西区西野だったのである。
「もともと西区には祖父母の家が昔あったんです。せっかく知床から札幌まで来たのに、まさか家から見える場所にこれほどヒグマが出てくるとは思いませんでした」と苦笑する。
札幌市内で秋に起きた“異変”
石名坂は、そもそも2025年の札幌における大量出没をどう見ているのだろうか。
そう尋ねると、石名坂は今秋のある「異変」について語り始めた。
「今年の初夏に他の会社のアルバイト調査員として、定山渓周辺の山に何度も入ったんです」
札幌市南区にある定山渓といえば「札幌の奥座敷」とも称される定山渓温泉で知られるが、その周囲の山々はヒグマの濃厚な生息地でもある。
「行ってみると、確かに自動カメラにはクマが映っているし、フンや足跡などの痕跡もそれなりにあったんですよね」
クマの生息地にクマの痕跡があるのは当然で、この時点では異変でもなんでもない。そして9月と10月、別の仕事で石名坂は、再び定山渓の山に入った。
夏に調査で入ったのと同じエリアに差しかかったとき、石名坂は呆気にとられた。
「どの木を見てもドングリが全然ないんです。あちこち見渡しても、ミズナラにドングリの実は全然ついていないし、かろうじてあったとしてもひねたようなごく小さな実しかない」
昨年の秋にミズナラのドングリが大豊作だったので、その反動で今秋は凶作だろうと予想してはいたが、実際目にした惨状は想像以上だった。しかも不作はドングリばかりではない。
「クマはこの時期、ヤマブドウやコクワ(サルナシ)などの実も食べるのですが、そうしたツル性植物の実もなっていない。双眼鏡で一生懸命探しても申し訳程度にしかついてませんでした」
その結果、夏にはあれほど濃厚に感じられたクマの気配は、そのエリアからほぼ消えてしまっていた。フンも足跡もまったく見つからなかった。石名坂は「自分がクマだったとしてもこの場所は見捨てるだろうな」と思わざるを得なかった。
クマ社会で進む“ドーナツ化現象”
山からクマの気配が消えたことは何を意味するのか。
「恐らく、“ドーナツ化現象”のようなことが起きているのかもしれません。つまりもともとは山奥にいたクマまで含めて、食べ物を求めて、実りのない山を出て人里の方へと移動しているのではないか」
通常、クマの生息場所には“序列”がある。人間の気配が少なく木の実が豊富な山奥には強いクマが居座り、その次に強いクマがその下のエリアに、親子グマや弱いクマは山のすそ野の方、人里に近い方に押し出される。人里近くには果樹園や家庭菜園がありエサには困らないが、その分、人間との接触機会も増えるので、クマにとっては本来居心地のいい場所ではない。
だが山の実りが極端に少ないと、本来山奥にいるクマもエサを求めて山を離れざるをえなくなる。
「もちろん山にいるクマがすべて人里に出ているわけではありませんが、とくに子連れのメスに関しては、例年以上に通常年の生息域を越えて移動している印象があります」
石名坂の印象は、西区で捕獲されたクマのほとんどがメスであったことからも裏付けられそうだ。
大量出没の2つのパターン
石名坂によると、クマの大量出没には2パターンあるという。
「(1)8月から9月初旬にかけての夏の大量出没と、(2)9月中旬以降の秋の大量出没という2パターンです。例えば私が知床で経験した2012年の大量出没は(1)のパターンで、2015年の大量出没が(2)のパターンでした」
(1)の真夏の時期はもともとクマが好む食べものが高山帯のハイマツのマツボックリと川を遡上するカラフトマスぐらいしかない。そのためハイマツが不作で、さらにマスの遡上が海水温上昇で遅れたりすると、クマは一気に飢えてしまい、人里への大量出没に繋がる。
「それでも秋になって山中にドングリなどが実れば、大量出没も落ち着くのですが、問題はドングリ類が不作だった場合です。ただでさえエサの少ない真夏の時期を経て、一息つくはずの秋の実りがない年に(2)のパターンの大量出没が起きる」
この秋、札幌で起きたのは、まさに(2)のパターンの大量出没ということになる。
「恐らく、本州各地におけるツキノワグマの大量出没も同じメカニズムだと思います」
ただ、と石名坂が首をひねる。
「実は今年(2025年)の夏、道南でも大量出没が起きたんですが、今夏の道南の大量出没の“トリガー”となった食物がなんだったのか、あまり道南の土地勘がないので、そこがちょっとわからない」
その道南の福島町では2025年7月、新聞配達中の男性がヒグマに襲われて死亡、その遺体を食害されるというショッキングな事故が起きている。石名坂はその現場にも入っており、何を目撃したのだろうか。
〈 「クマがかみついたまま…」「腹部を噛まれた」新聞配達中の50代男性がヒグマに襲われて遺体で発見…現場に残された“生々しい痕跡” 〉へ続く
(伊藤 秀倫)
九州大の中村雅史病院長が辞任、出張延泊のため経費不正支出に関与…学長「再発防止に努める」
九州大(福岡市西区)は25日、経費の不正支出に関与したとして辞任の意向を示していた同大学病院(同市東区)の中村雅史病院長が、病院長の役職を辞任したと発表した。辞任は24日付。九大はウェブサイトで経緯を説明し、「管理職としての権限を不適切に行使した」として謝罪した。
九大の石橋達朗学長は「国民の皆様、関係の皆様に深くお詫(わ)びする。今後、同様の事態が生じることのないよう、指導を徹底し、再発防止に努める」などとするコメントを出した。次期病院長が来年4月に就任するまでの間、中島康晴・副病院長が職務を務める。
発表などによると、同大の教員が今年2月、沖縄県での学会に参加する出張に関し、延泊分は私用だとして不支給とされた。出張終了後に教員から相談を受けた中村氏は、経費支給の根拠とするため、架空の会合が行われたように偽装する文書の作成を事務方に指示。教員はこの文書を使って経費を請求し、宿泊費など計1万数千円が大学側から不正に支払われた。
6月に不正を疑う情報が寄せられ、九大が調査委員会を設置して、聞き取りなどを進めていた。不正と認定した内容を中村氏に伝えたところ、本人が病院長の辞任を申し出たため、石橋学長が認めたという。
調査委は引き続き、他の不正の有無も含めて調べを進める方針。
タレントの宮崎麗果氏を告発、架空業務委託費計上で1億5千万円脱税疑い 東京国税局
架空の業務委託費を計上して計約1億5700万円を脱税したとして、東京国税局査察部が法人税法違反などの罪で、広告代理業などを手掛ける「Solarie(ソラリエ)」の宮崎麗果社長(37)と、法人としての同社を東京地検に告発したことが25日、関係者への取材で分かった。宮崎氏は白真勲元参院議員の娘で、元EXILEの黒木啓司さんの妻。タレントとしても活動している。
関係者によると、宮崎氏は令和3~6年、架空の業務委託費を計上して計約4億9600万円に上るソラリエの所得を隠すなどし、法人税や消費税約1億5700万円の支払いを免れた疑いが持たれている。隠した所得の一部はブランド品の購入などに充当。商品を自身のインスタグラムで紹介し、得た広告収入などをソラリエの売り上げにしていたとみられる。
国税局はあわせて、宮崎氏の脱税を手助けしたとして、法人税法違反幇助(ほうじょ)などの罪で、知人の男性会社役員ら2人も告発した。