「使命感のある人だった」。大阪・ミナミで消防隊員2人が死亡した火災で、亡くなった森貴志さん(55)と同期の大阪市消防局の男性隊員は突然の訃報に言葉を失った。
火災が起きた18日、男性は現場での活動には加わらなかったが、入り乱れる無線連絡を聞いて火災の大きさを悟った。30年以上の経験がある森さんが犠牲になるとは思いもしなかった。
後輩思いの面倒見の良い人だった。男性は「熱かったやろうな。私たちはこれを教訓に頑張らないといけない」と言葉を振り絞った。
森さんは妻と子ども2人の4人家族で、大阪府羽曳野市の自宅で暮らしていた。近所に住む女性(52)によると、子どもが小さい時には幼稚園のPTA会長を務め、運動会でのテント設営や荷物の運び出しなどの力仕事を率先して引き受ける姿が印象的だったという。
女性は「子煩悩な方で仲の良い家族。命をかけて仕事をしていたんだと思う。本当に残念だ」と話した。
長友光成さん(22)は2023年10月に大阪市消防局に採用された。隊員を育成・教育する大阪府立消防学校で同級生だった男性によると、宮崎県出身で仕事に対する姿勢も真面目だったという。
男性は「卒業までの半年間、訓練も部屋も一緒だった。宮崎弁がみんなを和ませ、同級生から親しまれていた。亡くなったことが、まだ受け入れられない」と悲痛な面持ちで話した。【川地隆史、松原隼斗】
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自民、総裁選前倒しの議論開始=議員・地方組織の意思確認へ
自民党は19日、石破茂首相(党総裁)に対する事実上の「リコール」を意味する総裁選前倒しに関する議論を始めた。党所属国会議員と各都道府県連の意思確認で、過半数の要求が集まるかどうかが焦点。報道各社の世論調査では、首相の続投を望む声も広がっており、「石破降ろし」の動きが強まるかは不透明だ。
総裁選挙管理委員会(逢沢一郎委員長)は同日、党本部で初会合を開いた。委員の欠員を補充した後、意思確認の時期や方法を議論。予定の1時間を約45分超過したが結論は得られず、来週早々にも改めて話し合うこととなった。
逢沢氏は会合後、意思確認について「書面で行う方向で整理したい」と記者団に説明。本人確認を徹底するため、回答時に記名を求める考えも示した。 [時事通信社]
「サイレースおじさん」を逮捕 少女に睡眠薬を渡した疑い 福岡
福岡・天神の警固公園に集まる「警固界隈」の10代少女に睡眠薬を渡したとして、中央署は19日、佐賀県伊万里市二里町八谷搦、無職、太田寛和容疑者(50)を麻薬取締法違反(向精神薬の譲渡)容疑で逮捕した。太田容疑者は警固界隈の若者らから、睡眠薬を渡してくれる人物として「サイレース(睡眠薬)おじさん」と呼ばれていた。
逮捕容疑は7月5日午後0時50分ごろ、福岡市中央区天神の警固公園そばで、10代の少女に向精神薬である睡眠薬8錠を無償で渡したとしている。太田容疑者は「間違いない」と容疑を認めている。
同署によると、2月に情報提供があり、捜査で太田容疑者の関与が浮上。県警は太田容疑者の自宅から本人が処方されたとみられる同じ睡眠薬36錠を押収した。一方、同法は他人に向精神薬を譲渡することを禁止している。太田容疑者は薬を渡した見返りに少女に抱きつくことを要求しており、少女はこれまでに「太田容疑者から薬を10回以上もらった」と話しているという。同署は余罪もあるとみて調べている。【栗栖由喜】
【大阪・道頓堀ビル火災】「5階で消火活動していた時に天井が崩落して、6階に避難したとみられる」殉職した消防隊員2人の状況について大阪市の横山市長が見解示す
大阪・道頓堀のビルで消火活動中の消防隊員2人が殉職した火災について、大阪市の横山英幸市長は19日の囲み取材で言及しました。「正確な調査結果を待ってほしい」としたうえで、関係部署から報告されている情報などをもとに、隊員2人が亡くなった状況について次のような見解を示しています。
▼大阪市・横山市長の発言
(大阪市・横山英幸市長)
「5階で消火活動をしていた時に、消火活動している空間の天井が崩落して、二手に避難した。避難した一方の逃げ道がなくなった。
(2人は)6階部分で見つかったので、恐らくそのエリアから上に避難した中で、酸素も時間制限があるから(亡くなった)と考えられる状況になる」
▼隊員2人死亡…現場ビルは過去には法令違反の指摘も 事故調査委員会で原因究明へ
18日午前に大阪市中央区宗右衛門町のビルで発生した火災では、20代の女性と6人の消防隊員が負傷し救急搬送されました。このうち、消火活動にあたってい浪速消防署の森貴志さん(55)と長友光成さん(22)の2人が死亡しました。
横山市長によりますと、亡くなった隊員の森さんと長友さんは複数人でチームを組み、ビルの5階で消火活動をしていた際に5階の天井が崩落して外に出られず、6階に避難したところ、酸素が足りない状態に陥った可能性が考えられるということです。
また、消防によりますと火災現場となったビルでは、おととしの立ち入り検査で6項目の消防法令違反が指摘されていたということです。現時点で、この違反が火災と直接的な因果関係があるかどうかはわかっていません。
横山市長は市内全てのビルで法令違反がないかの緊急点検を行うことについては「現実的ではない」としつつ、現時点で把握している不備の洗い出しと是正を可能な限り早く進めるよう指示していることを明らかにしました。
今月21日を目途に立ち上がる予定の事故調査委員会には第三者の専門家も参加するということで、大阪市はこの調査委員会で原因の究明を進める方針です。
斎藤知事を「心神喪失」とやゆ 兵庫県議、発言取り消しへ
兵庫県の松井重樹県議(71)=自民党=が県議会の総務常任委員会で、斎藤元彦知事が連発する「真摯に受け止める」という言葉を取り上げ「真摯に答える、真摯に答える。これを心神喪失と言うんだなと周囲で笑い飛ばしている」とやゆする発言をしていたことが分かった。自民会派幹部は19日の議会運営委員会で不適切な発言だったとして謝罪。取り消しの手続きに入ると説明した。
松井氏は取材に対し「言葉遊びだった」とした上で「知事に対する発言ではない」などと釈明。「意図と違う捉えられ方をされ、委員会で話題になって、いろいろと言われた。それ自体が申し訳なく、反省している」と述べた。
問題の発言があったのは18日の総務常任委員会。この場では斎藤氏が疑惑告発者の情報漏えい問題を巡って提出していた給与減額条例案について協議され、松井氏が提出の背景について県側に質問する際に発言した。
県議会事務局によると、本人から委員長に発言取り消しの申し出があれば、議事録から削除されるという。
消化器外科医の不足深刻…厳しい勤務で若手敬遠、「胃や腸のがん患者の命に関わる」学会に危機感
胃や腸などの手術にあたる消化器外科の医師不足が深刻だ。医師数は20年前より2割減った。長時間の手術や休日夜間の救急対応といった厳しい勤務状況を、若手医師が敬遠するためだ。人材確保に向け、大学病院では、業務負担の軽減や給与の増額などに取り組んでいる。厚生労働省も外科医の待遇改善策について、今年度から本格的な検討を始めた。
日本消化器外科学会によると、医療機関に勤務する消化器・一般外科の医師は2022年時点で約1万9000人と、02年からの20年で2割減った。麻酔科が7割増、内科が2割増と他の診療科が軒並み増えているのとは対照的だ。
同学会理事長の調(しらべ)憲・群馬大教授は「執刀医が確保できず、夜間の救急診療が難しくなった病院もある。このままでは手術の待機期間が延びて、胃や大腸のがん患者の命にも関わる」と窮状を訴える。
減少の背景には、若手医師が労働時間や対価を重視し、「割に合わない」と避けることがある。休日夜間に緊急手術の呼び出しがあるうえ、難しい食道がんの手術では、10時間を超えることもある。対する給与水準は、他の診療科と変わらない。さらに、高度な技術を身につけるため、長期間の修練を要することも避けられる理由となっている。
大学病院も対策に乗り出している。北里大(相模原市)は、1人の患者を複数の医師で担当する。患者に緊急対応が必要になった場合、休みの医師を呼び出さず、勤務中の医師があたる。消化器外科の樋口格講師(45)は「手術が成功して前向きになる患者の姿を見るのがうれしい。若手にやりがいを伝えることも重要」と話す。
富山大は、長時間に及ぶ手術で執刀医を3~4時間ごとに交代する仕組みや休日回診に当番制を導入。広島大は今年度、若手医師の年俸を1・3倍にする。
診療体制の維持に向け、同学会は、地域の拠点病院に消化器外科医を集約したい考えだ。一定数の医師がいれば、休みが取りやすくなり、様々な患者を診ることで経験も積めると期待する。厚生労働省も勤務環境や医師の待遇の改善を図る医療機関に診療報酬を手厚く配分することを検討している。
お盆で弟が帰省し家族でBBQ中通報「兄弟喧嘩が起きている」 兄が弟の肩にかみつき逮捕 北海道
北海道・森警察署は2025年8月17日、傷害の疑いで、鹿部町の自称・会社員の男(23)を逮捕したと発表しました。
男は8月16日午後11時15分ごろ、自宅の敷地内で、大学生の弟(21)の肩にかみつく暴行を加え、けがをさせた疑いが持たれています。
弟は肩に皮下出血を負う軽傷です。
警察によりますと、弟はお盆で実家に帰省していて、当時自宅の敷地内では男と両親、弟、弟の友人の5人でバーベキューをしていたということです。
その際「兄弟喧嘩が起きている」と弟の友人が警察に通報していて、男の容疑が固まったため、17日に逮捕しました。
調べに対し男は、容疑を認めています。
警察が詳しい経緯を調べています。
長野・岡谷ジャンクション、改修工事中の2か月間に53件の事故…渋滞で追突事故多発か
中央道と長野道が合流する、長野県岡谷市の岡谷ジャンクション(JCT)付近で5~7月に実施された改修工事で、工事期間中に発生した事故は53件だったことが、長野県警高速隊のまとめでわかった。車線規制に伴い渋滞が発生し、前方不注意による追突事故が多発したとみられる。規制は18日から順次再開予定で、同隊は脇見をせずに運転し、車間距離を確保するよう呼びかけている。
2024年から断続的に行われているこの改修工事は、5月12日~7月25日に長野道岡谷JCT―岡谷インターチェンジ(IC)間の上下線で行われ、期間中は片側2車線を1本に規制した。NEXCO中日本によると、長野道の上り線で7月20日、期間中で最大となる12・1キロ88分の渋滞が発生した。
また同隊によると、中央道を含めて周辺で発生した53件の事故のうち、約6割にあたる31件が長野道の上り線で起こった。人身事故は9件で、全て追突によるものだった。
工事は29年頃まで断続的に行われる予定だ。同隊は「カーブが多いため、見通しの悪い場所では『この先は渋滞しているかもしれない』という意識を持ってほしい」と注意を呼びかけている。
「大きな衝突音が…」男女3人が乗った乗用車が民家に突っ込む 後部座席にいた女性が死亡し男性2人もケガ
18日午前3時過ぎ、三重県松阪市で乗用車が民家に衝突し、男女3人が病院に運ばれました。このうち後部座席に乗車していた女性は、病院で死亡が確認されました。 警察によりますと、18日午前3時過ぎ、松阪市小黒田町で「大きな衝突音がして、外に出たら、民家の塀に車が衝突していた」と、付近の住民から警察に通報がありました。 現場に駆け付けたところ、普通乗用車が道路脇の民家に衝突し、乗車していた男性2人と女性1人が病院に運ばれましたが、女性は全身を強く打ち死亡しました。男性2人も頭などにケガをしているとみられますが、ケガの程度は分かっていません。 警察が現在、詳しい事故の状況を調べています。
5年もの「リニア遅延行為」も反省の色はまるでなし…知事交代後も過ちを頑なに認めない静岡県の「無責任体質」
リニア南アルプストンネル静岡工区(8.9キロ)工事の早期着工を踏まえ、JR東海の水野孝則・副社長が8月1日、静岡県の平木省・副知事を訪問し、トンネル本体工事の準備段階とするヤード(工事の作業基地)用地の拡張を要請する文書を手渡した。
ヤードの準備工事といえば、5年前、当時の金子慎JR東海社長と川勝平太知事との面談をきっかけに、JR東海と静岡県の間で激しいやり取りが続いた因縁のテーマだ。
川勝知事が準備工事を認めなかったことで、JR東海は「2027年開業は延期せざるを得ない」と表明し、新聞、テレビは「静岡県がリニア開業を遅らせた」と大騒ぎした。
この準備工事を認めなかったことがさらなる「静岡悪者論」を生んでしまった。
しかし、今回静岡県はJR東海の「5年越しの再提出」をあっさり認める方針だ。
まず当時、いったい、何があったのかを振り返る。
2020年6月26日、金子社長が静岡県庁を訪れ、川勝知事にトンネル本体工事以外のヤードの準備工事を認めてもらうよう要請した。準備工事には「トンネル掘削は含まない」と明記されていた。
川勝知事は「自然環境保全条例は5ヘクタール以上の開発であれば協定を結ぶ。県の権限はそれだけである。条例に基づいて協定を結べばよい。活動拠点を整備するならばそれでよいと思う」などと述べ、いったんはヤードの準備工事を認めた。
ところが、その約1時間後に再び囲み取材を行い、「自然環境保全条例に基づいて準備工事を認めない」と前言を翻してしまった。
理由として、準備工事に斜坑、導水路、工事用道路の坑口整備(樹木伐採や斜面補強)、濁水処理等設備の設置などを含めていたことを問題にした。
静岡県は、樹木伐採や斜面補強などをトンネル本体工事の一部とみなして、準備工事に「ノー」を突きつけたのである。
トンネル本体は大井川の直下約400メートルを通過する。その建設には、いくら大深度の地下であっても河川法の占用許可が必要となる。川勝知事は頑なに占用許可を認めてこなかった。
だから、JR東海がトンネル掘削を想定して樹木伐採や斜面補強、濁水処理等の設置などを行っても、勝手にトンネル掘削できるはずもないのだ。
つまり、準備工事を「トンネル本体工事の一部」とみなしたのは単なるいやがらせでしかない。
このため、JR東海は、川勝知事の「自然環境保全条例に基づいてヤード工事を認めない」という表明に強く反発した。
トップ会談のあと、JR東海は「知事は5ヘクタール以上であれば協定締結の可否によって判断すると述べた。速やかに協定締結の準備を整え、ヤード整備に入りたい。もし、それが困難であるならばその理由をうかがいたい」と毅然とした書面を静岡県に提出した。
これに対して、静岡県は「ヤードの準備工事はトンネル工事の一部であるという行政判断をした」と一方的な解釈を示しただけで逃げてしまった。
この回答に納得できないJR東海は「条例の目的に照らして(静岡県の行政判断は)正当なものではなく、これまで担当課から説明を受けて準備を進めていたこととは違う」と、あえて事務レベル段階での進捗を明かした上で、「変更した経緯と理由を明らかにしてほしい」とする書面を再度送った。
JR東海は水面下で県担当者と条例に基づいた「協定書案」をまとめる方向で進めていた。だから、県がそれまでの姿勢を180度変えてしまったことに強い不満を抱き、納得できなかったのだ。
そもそも、自然環境保全条例にそれほど強い権限がないことはJR東海だけでなく関係者すべてが承知していた。
環境省は自然環境保全法に基づいて、全国に原生自然環境保全地域、自然環境保全地域を指定している。都道府県は、国の2つの地域に準ずる地域を指定するために、条例を制定している。この地域は地域内の特に貴重な動植物の保全などを求めているが、開発の可能な地域でもある。
ただ条例は強制力を持たず、開発業者が協定締結を怠った場合に業者名を公表する程度の罰則規定しかない。
自然環境保全条例の規制は緩く、協定締結のハードルは非常に低い。
それなのに、静岡県は南アルプスのリニアの準備工事に限って、自然環境保全条例の解釈、運用を拡大して、樹木伐採や斜面補強、濁水処理等の設置などをトンネル本体工事の一部とみなして、準備工事を認めないというのだ。
1971年の条例制定以来初めての措置であり、リニアの準備工事という理由だけで、JR東海の要請を蹴ってしまったことは誰の目にも明らかだった。
あまりにも理不尽であり、こんな無理筋を強行すれば、静岡県への批判が高まるのは当然だった。
これにいち早く反応したのが、隣の山梨県議会だった。県議会は「国が前面に立って課題を解決すべき」との意見書を可決した。
国交省は水面下で法律の趣旨に反する対応だと翻意を促したが、静岡県は耳を傾けなかった。
官邸からの指示があり、静岡県の常識外れといえる対応を国は放っておくわけにはいかなくなった。
金子社長の面談から2週間後に、国交省の事務方トップ、藤田耕三事務次官、水嶋智鉄道局長(現・事務次官)が川勝知事と面談するために静岡県庁をわざわざ訪れるという異例の事態となった。
藤田次官らは川勝知事に法律の趣旨を説明して懇願したが、川勝知事に軽くいなされ、面談は終わってしまった。
当時、大井川流域の首長たちが川勝知事を強く支援していたのだ。
彼らは「準備工事を認めれば、なし崩しに本体工事につながる可能性がある」「2027年開業にこだわるヤード整備は住民の不信感を増す」などと主張したため、静岡県は「本体工事につながる準備工事を認めない」との方針を決めたという。
たとえ法律の趣旨、解釈に背いていても、現在では国と地方は対等の関係であり、国が条例に基づいた地方の対応を変えさせることなどできるはずもない。
藤田次官は「静岡県の解釈、運用に問題はない」と述べるだけで、どうすることもできなかった。
この結果、国の威信は地に落ちてしまった。
それから5年がたち、川勝知事の退場で対応は一変した。
8月1日に水野副社長から要請書を受け取った平木副知事は「本体工事に直接関わるような設備や施設を置くことは原理原則として行えない。今回はわれわれの原理原則に反するものではない。庁内で協議していく」と準備工事を認める方針を示した。
今回は、準備工事はヤード用地の拡張にとどめさせ、「(準備工事には)坑口整備や濁水処理等設備の設置などの本体工事(トンネル工事)については含まない」と5年前の行政判断を尊重する断り書きをわざわざ入れさせた。
坑口整備(樹木伐採や斜面補強)、濁水処理等の設置などを行ってもトンネル掘削をするわけではない。それなのに、いまでも静岡県は「トンネル本体工事の一部」とみなしているのだ。
だから、静岡県の「原理原則」とは、「準備工事はトンネル本体工事の一部である」とした5年前の行政判断が正しかったことを指すのである。
5年前の行政判断が正しかったと強弁することで、過去から現在まで静岡県に何ひとつ間違いなどなかったことにしたいのだろう。
これまで、「山梨県の調査ボーリングで静岡県の湧水が引っ張られる。静岡県の水一滴すべてを戻せ」など、リニア問題に関して、静岡県はさまざまな独自の主張を繰り返してきた。川勝知事の退場後も、過去の総括をしないで、すべて正しいとして、リニア問題の対応に当たっている。
だから、リニア開業を遅らせたとする「静岡悪者」論はいまだに根強い。
「準備工事を認めれば、なし崩しに本体工事につながる」ことなどあり得ないとわかっていたのに、静岡県は準備工事にストップを掛けた。
そんな行政判断が正しいはずはないのに、いまでも「原理原則」だと固執する。この結果、JR東海は静岡県の意向に従い、準備工事の定義を変えざるを得なくなった。
「静岡悪者論」を払拭させる対応とは、平木副知事が泥をかぶる覚悟で、過去の間違いを認めた上で、静岡工区の着工に舵を切るという姿勢を見せることである。過去のおかしな対応をそのままにしておいては、信頼回復につながるはずもない。
底の割れた茶番のごまかしをやっていれば、将来に禍根を残すだろう。これまで静岡県のやってきたことがすべて正しいとして「原理原則」を唱え続ければ、どこかでつじつまが合わなくなるのだ。
いま問題になっているトンネル工事で発生する要対策土の処理について、静岡県は国に法律の解釈を求めた。もし、国の都合のよい解釈をそのまま「錦の御旗」にでもすれば、静岡県の「原理原則」が、底の浅いものであることを満天下に知らしめるだけである。
「正直」こそが最善の戦略である。静岡県は過去の過ちは過ちだと正直に認めるところから始めるべきである。JR東海の描く「リニアのある未来」を多くの国民が待望するのであれば、1日も早い静岡工区の着工が待たれる。
JR東海の計画にもずさんで見通しの甘い部分があったことも大きな原因のひとつではある。しかし、静岡県は、静岡県で「真実」を正直に伝えるべきである。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)