政府の2026年度予算に基づく施策で経済的負担が大きく増えることが懸念されるのが、重病治療にかかる高額な医療費の一部を支援する「高額療養費制度」の利用者だ。患者の負担限度額を引き上げる方針の政府に対し、野党は予算審議終盤、撤回を強く求めた。昨秋には引き上げに反対していた高市早苗首相だが、その後は真逆の「新方針」を打ち出し、撤回する気配はない。
【画像】「全然配慮になっていない」と訴えるステージ4の肺腺がんで闘病中の水戸部ゆうこさん
凍結はどこへ? 水面下で進む“負担増”の実態
「現時点でもすでに経済的負担のために治療を控える、あきらめている患者さんがいます。高額療養費の見直しでさらに増える可能性はあるかと考えます」
4月2日、参議院厚生労働委員会に参考人として出席した天野慎介・全国がん患者団体連合会(全がん連)理事長の話に委員会室は静まり返った。
高額療養費制度は石破前内閣が編成した2025年度当初予算案で自己負担限度額を最大で月76%引き上げる方針が示された。
だが当時の石破首相は結局、患者の声を聞かない改定の非を認め「私の判断が間違いだった」と陳謝し凍結した。
「ポスト石破を決めた党総裁選で、当時の高市候補はメディアのアンケートに対し限度額を『引き上げるべきではない』と答えています。
しかし、高市政権が発足した後の昨年12月に、厚生労働省は引き上げる内容の改訂を決めました。
見直しは、26年8月に限度額を一律に引き上げ、27年8月には所得区分を現行の4から13に細分化して限度額をさらに見直す内容です。
年収650~770万円の所得区分では、額上限は現の8万100円から最終的に11万400円へと約38%増える内容です」(政治部記者)
改定では、年4回以上の制度利者の負担上限を定額に抑える既存の「多数回該当」制度を維持し、年収200万円未満の所得区分の人はこの仕組みでの支払い上限額が引き下げられた。
また現役世代には年間上限負担額(年収650~770万円で53万円)が新たに設けられた。
これについて高市首相は2月の衆議院本会議で、「高齢化や高額薬剤の普及などにより高額療養費が増加するなかで、持続可能性の確保と長期療養者や低所得者へのセーフティネット機能の強化の両立を目指して見直す。具体的には専門委員会での議論も踏まえ年間上限の仕組みを新設する」と発言した。
実際にセーフティネット強化になるのか。
全国保険医団体連合会(保団連)の本並省吾事務局次長は、厚労省の資料を基に「多数回該当の対象にならない年3回以下の制度利用の患者は約660万人で、全利者の約8割を占める」と指摘する。
いっぽうステージ4の肺腺がんで闘病中の水戸部ゆうこさん(51)は、「私は長期療養者ですが、標準治療の間に治験薬による治療をはさんだり、体を休ませるため薬を入れない“休薬”をしたりして(1年間の治療回数が4回に達せず)多数回該当から外れることを経験してきました。だから全然配慮になっていない」と訴える。
上野賢一郎厚労相「必要な受診が抑制されることは想定していない」
こうした負担増で最も憂慮されるのが冒頭で天野理事長が指摘した「受診控え」だ。
政府は改定で年2450億円の給付削減を見込む。患者や医師団体が不信を募らせるのは、このうち1070億円は医療費負担上昇に伴う受診控えが生み出すと政府が計算しながらそれを認めないことだ。
上野賢一郎厚労相は「今回の見直しで最終的に実効給付率が約0.28%低下すると見込まれている。実効給付率が変化した場合に経験的に得られている医療費の増減効果の算定式に機械的に数値を代入すると給付金の変化(減少)が約1070億円の減となる」と説明する。
だが同時に「長期療養者や低所得者に十分配慮しており、必要な受診が抑制されることは想定していない」とも主張するのだ。
そのようなことがあり得るのか。
保団連の患者調査では高額療養費制度利用経験者1328人のうち65.7%の872人が「負担限度額引き上げなら受診の間隔を延ばす、見送る」と答えている。これは低所得者層だけの話ではない。
世界保健機関(WHO)は所得から税金・保険料と生活費を差し引いた「支払い能力」のなかで、医療費の支払いが40%超の状態を「破滅的医療支出」と呼び、家計の破綻を警告する。
3月の衆院予算委にも呼ばれた天野理事長は、安藤道人立教大教授の研究を基に、今回の改定で負担が増えれば、患者が年収を維持できても「ほとんどの年収区分で40%を超える」と指摘した。
「ペットボトル1本分(117円)の軽減を命と引き換えにできるのか」
それだけではない。
「病気になると退職や転職、働きの変化により所得が減少する場合も多くあります。がんと診断された1年後に所得準が平均で34%減少したとの分析結果が出ています」
患者の生活実態をそう話した天野理事長は、所得が3割弱減ればほとんどの年収区分で負担は「破滅的医療出の40%をきく超える50%、60%、あるいはそれ以上のきな割合となる」と訴えた。
本並・保団連事務局次長は「所得が3割減れば間違いなく受診抑制が起こる。厚労省は年収が維持される前提で支払いに耐えられるかどうかを議論するが、所得減少時のシナリオは考えていないことがわかっている。所得減による支払い余力の調査をしていない。これが最大の問題だ」と話す。
この改定で生み出せる健康保険加入者1人あたりの負担軽減額は、平均で年間約1400円、月額で117円程度だ。
乳がんで闘病中の板井富子さん(62)は「治療とそれ以外にかかる費用もあって、体も気持ちもズタズタにされた思いでした。でも、高額療養費(制度)があるから頑張って治療していこうと私は前向きに捉えることができました。ペットボトル1本分(117円)の軽減を命と引き換えにできるのかという問題です」と話す。
石破前内閣の反省から、厚労省は全がん連など患者団体も参加する専門委員会を計9回開いた。
だが、厚労省と財務省は昨年12月24日に引き上げを決めると、それを翌日の第9回専門委員会で示しただけで協議は行なわれていない。
さらに翌26日に負担増を盛りこんだ2026年度予算案が閣議決定され、委員会はその後一度も開かれていない。
「現状でも支払いが困難でより治療効果が低い1世代前の古い治療や薬を選択している患者さん、子どもの将来のためにお金を少しでも残したいと治療自体をあきらめる決断をされたがん患者さんがいます。非正規雇用のがん患者さんの中にはクレジットカードのリボ払いでしのいでいる人もいます」
がん患者の追い詰められた生活を紹介した天野理事長は、負担額の議論は終わっていないと訴えた。
保団連が呼びかけた負担限度額引き上げ撤回を求める署名は27万1923筆(4月7日時点)に達している。
「責任ある積極財政」は病気の人には届かないのか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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安倍元首相の番記者を務めた岩田明子氏が語る「安倍晋三氏と高市早苗氏の外交の違い」 経験が源の“シンゾー外交”と勘の良さが際立つ“サナエ外交”
首相として選挙で自民党を”一強”へ導いた、保守派の政治家である「安倍晋三氏と高市早苗氏」。”安倍後継”である高市政権だが、その捉え方だけでは本質を見誤りかねない。両者の外交面での違いはどこにあるのか、元NHK政治部記者・解説主幹の岩田明子氏に聞いた。
* * * 外交は経験がものを言う世界です。首脳外交ともなれば、相手の首脳とどう信頼関係を築くか人間力が問われる。
安倍政権時代、何度も首相外遊の同行取材をしましたが、安倍さんは専門家から「外交の絶対音感がある」と評価されるほどのセンスがあった。
オバマ政権末期にリスクを取ってトランプ次期米大統領と会談し、「外交はなんでもシンゾーに聞く」と言わせるほどの信頼を得た。言葉通り、18年、米朝首脳会談前に相談があり、終了直後にエアフォースワン機中のトランプ氏から安倍さんに会談結果の報告が届いた。
G7サミットでトランプ氏と欧州が対立した時は、当時のメルケル独首相らから頼まれ、議長国でもないのに安倍さんが仲介し、首脳宣言をまとめたこともある。米国とイランの緊張が高まった2019年には、自らイランを訪問。西側首脳と滅多に会うことがなかったハメネイ師とも会談した。
卓越した外交力の源は若い頃から積み重ねた外交経験にあるのでしょう。父である安倍晋太郎・外相の秘書官を務め、官房副長官時代には時の小泉純一郎・首相の北朝鮮訪問に同行。総理になってからは地球を何周もしています。安倍外交の本質は日米同盟の強化、価値観外交、地球俯瞰外交にあり、強固な日米関係を世界の安定に活用した。
そんなスーパーマンの安倍さんに対して、高市さんは外務大臣や防衛大臣の経験もありません。就任してまだ半年の総理と安倍さんを比較することは意味がないうえ、国際情勢も激変している。
ただ、高市さんは今回の訪米でいきなり戦争当事国に乗り込むことになったが、首脳会談をなんとか乗り切った。外務省、経産省、防衛省等の知恵を結集した総力戦で米国産の原油を共同開発して購入し、第二弾の対米投資などトランプ氏が望む経済カードを切ったのが功を奏しました。
高市さんは外交的な勘がいいように見受けます。訪米前、PayPal創業者でトランプ氏にも影響力を持つピーター・ティール氏が滞日しましたが、首相官邸で面会した。スルーしてもおかしくないが、斬新な発想で知られ、影の大統領とも称される人物との接点を逃さない。ここに”サナエ外交”の可能性を垣間見ました。
【プロフィール】 岩田明子(いわた・あきこ)/千葉県出身。東京大学法学部卒業後、NHK入局。2002年、安倍晋三氏の番記者に。官邸や政党担当の他、外交取材多数。2013年から政治担当の解説委員を兼務。2022年7月、NHKを退局。近著に『安倍晋三実録』(文藝春秋、2023年)がある。
※週刊ポスト2026年4月17・24日号
「ヤジと同じ」立憲・小西議員、高市首相に〈大きな声で答弁して〉審議内容とかけ離れた“注文”投げかけ物議
4月6日に開かれた参院予算委員会に高市早苗首相が出席し、集中審議が実施された。焦点となったのは、やはり緊迫が続く中東情勢とそれに対する日本の対応だ。
「声が小さい」高市首相に飛ばした注文
立憲民主党の小西洋之議員は、中東問題に切り込む前に、冒頭質問で首相の国会に望む姿勢を問題視。「国会の場で堂々とわれわれ野党の質問を受けることが首相の憲法上の責務だ」「高市首相ほど、この責務をないがしろにしている首相はいない」と批判した。
「先日、高市首相の集中審議への出席を自民党が拒否したと報じられました。これについて5日、首相自身がX(旧ツイッター)で《私が参議院予算委員会の集中審議に応じない意向を示していたとの報道は、全く事実ではありません》と反論。すでに決まっていたインドネシアやフランスの大統領との会談もあり、調整した結果だと述べています。しかし、過去の首相に比べて集中審議の時間がかなり少ないのは確かなので、そこを小西議員は突っ込んだのでしょう」(全国紙政治部記者)
そして肝心の中東情勢について、小西氏は現在の状況を「(イラン攻撃が始まった)2月28日以降で最も緊迫した状態」と指摘し、「米国、イスラエル、イランに働きかけて即刻の、早期の紛争停止のための枠組みを設定する外交努力が求められている」と訴えた。加えて「日本の国益、日本の生存戦略のための首脳外交として、自ら何を具体的にやっているのか」と追求。
これに対して高市首相は、首脳外交としての行動を「しょっちゅうやっていると思う」と反論。「今、予算委員会にいるが、今日、明日も含めてできる限りの対応ができるように指示は常にしており、最新の情報に接しながらできることを模索している」と回答した。
ホルムズ海峡を巡るエネルギー危機など、中東情勢は日本の経済や国民の暮らしにも大きな影を落としている。これらのやり取りはおこなわれて然るべき答弁だが、高市首相の回答に返した小西氏の発言が、物議を醸しているようだ。
「首相の返答に、小西議員は“体調が良くないのか声が小さい”“もう少し大きな声で答弁してほしい”と注文をつけたんです。さらには、先月の日米首脳会談の際に、首相がトランプ大統領に“媚を売っていた”という報道があるとまで発言。行き過ぎた発言に、世間から批判が集まっています」(前出・政治部記者)
ネット上の反応を見てみると、「本当に体調良くないと思ってたら“大きな声で話せ”なんて言わないよね。ただのヤジと同じじゃん」「国会で答弁するにも、もう少し心の広さを持ったほうがいい」「意義のある反論ならまだしも、人格攻撃しているようでは建設的な議論はできないよ」「与党を批判していれば仕事してるっぽい気分に浸れるんだろうな」など、厳しい意見が並んでいる。
追求するべきことはツッコむべきだろうが、“声の大きさ”も、質の高い議論に必要なものなのか――。
《女性天皇を見てみたい》中道・小川代表の“愛子天皇待望”発言撤回が波紋、皇室専門家が提言する“ヒアリング”
天皇、皇后両陛下と長女の愛子さまは4月6日から2日間、福島県を訪問された。
「今年は東日本大震災から15年の節目の年です。当初は3月25日から2日間、岩手県と宮城県を訪問される予定でした。しかし、両陛下のご体調が整わず延期となってしまいました。それだけに、今回の福島訪問に向けて入念に準備されてたのではないでしょうか」(皇室担当記者、以下同)
小川代表による事実上の“愛子天皇待望論”
4月15日には、皇族数確保に関する与野党協議の場が設けられる。
「各党は協議を前に、記者会見で皇位継承について触れています。共産党の田村智子委員長は4月2日に行われた記者会見で“憲法の下での天皇制度と考えれば、当然女性天皇が認められるべき”と述べ、男女で扱いが異なることへの疑問を投げかけました」
皇族数確保に関する協議は長らく続いてきたが、自民党と立憲民主党の意見は対立し、結論が出ないまま今に至る。そんな中、3月27日、中道改革連合の小川淳也代表の会見での発言が波紋を広げた。 「小川代表は女性天皇容認の立場を示したうえで、“女性天皇を生きているうちに見てみたいという日本国民の一人だ”と発言しました。この発言は瞬く間に拡散されましたが、4月3日には撤回する事態にまで発展したのです」
元号や天皇制を研究している神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は、小川代表の発言をこう分析する。
「ポイントは“存命中に”という点です。現在54歳の小川代表の余命を平均寿命で考えれば、あと30年ほど。その間に即位の可能性がある女性といえば、愛子さましかいらっしゃいません。つまり、この発言は事実上の“愛子天皇待望論”と受け取られたわけです」
皇室典範の改正においても世論が欠かせない
結局、小川氏は発言の撤回に追い込まれたが、鈴木准教授は今回の騒動には今の空気感がよく表れているとして、こう指摘する。
「小川代表個人の意見というより、“愛子天皇を求める世論”を政治家として肌で感じ取った結果でしょう。正直、今回の発言が政治的に強い影響を与えられるとは思えませんが、公式には口にはできない永田町のタブーを突いたという意味で、インパクトはありました。
ただ、問題なのは皇位継承の議論が“愛子さまは立派だから”という属人的な話にすり替わっている点です。もし愛子さまがこれほど国民の期待に応えることができる存在でなかったら、こういった声は上がらなかったはず。制度論が個人の資質に左右される現在の状況は、危ういと言わざるを得ません」
皇族数の減少に関する協議が行われるのは1年ぶりとなるが、より明確な結論を出すためには“世論”の存在が不可欠だという。
「日本は民主主義国家なので、皇室典範の改正においても世論が欠かせません。しかし、“その世論をどう捉えるか”という問題が非常に重要になってきます」(鈴木准教授、以下同)
各メディアが行う世論調査では、いずれも女性天皇を支持する声は過半数を大きく超えている。
「一方で、直近の衆議院選挙では自民党が圧勝したわけです。もちろん、自民党を支持していても“皇室典範に関しては自民党の考え(男系維持)を支持しない”という有権者もいるはずですが、それを言い出したら選挙の意味がなくなってしまいます。政治の世界において、世論=自民党を支持したという点で見れば、“男系男子の維持”が世論とされてしまうのでしょう」
皇位継承について注目が集まる一方、4月15日からの協議の主眼は「皇族数減少」への対策だ。
「これまで“女性皇族が婚姻後も皇室に残る案”と“旧宮家の男系男子を養子に迎える案”の2案が話し合われてきました。国民民主党の玉木雄一郎代表は3月31日の記者会見にて、女性皇族の年齢も鑑みて、前者の案を速やかに実現するよう求める発言をしています」(前出・皇室担当記者)
上皇さまの退位が当人たちへのヒアリングの前例に
しかし、当の女性皇族は皇室に残ることをはたして望んでいるのだろうか。
「現在、皇族は基本的人権が制限された状態にあります。女性皇族の場合、結婚して皇籍を離れれば、名字や戸籍、選挙権を得て、自由な生活を送るチャンスがあります。しかし、女性天皇や、婚姻後も皇室に残る制度が実現すれば、一生その機会は失われます。ジェンダー平等の観点から言えば、女性も天皇になれる権利は重要でしょう。しかし、人権を得られるチャンスを奪ってしまうという見方もできるのです」(鈴木准教授)
秋篠宮さまは「当事者の意見を聞いてほしい」との趣旨の発言をされてきた。
「かつて、佳子さまが“私とお姉ちゃんは生まれたときからここしか知らない”といった胸中を明かされたと報じられたことがあります。ご本人がどう考えているのかはいまだにベールの向こう側です」(前出・皇室担当記者)
鈴木准教授は、今回の協議に向け、対象となる皇族の方々へのヒアリングを提言する。
「私は、絶対に秘密が守られるという条件のもとで、ご本人たちが胸の内をすべて吐き出せる機会をつくるべきだと考えています。10年ほど前、上皇さまが“退位”の意向をにじませ、結果として特例法がつくられたという前例があります。人権に年齢は関係ありません。“あなたには人権がないんだからダメです”と突き放すのが法律の建前かもしれませんが、結局は“声”を聞かざるを得ないという状況になったのです。
もし愛子さまが“天皇になりたい”あるいは“自由になりたい”と主張された場合、政府はどのように向き合うのか。政治家は世論の顔色をうかがうだけでなく、一人の人間の人生に対して腹をくくる必要があるでしょう」
女性皇族が自らの未来を、自らの意思で描くことができる。そんな日が今年中に実現できるのだろうか─。
鈴木洋仁 神戸学院大学現代社会学部准教授。元号や天皇に関する研究を進めており、著書は『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青土社)ほか多数
「富士山に最も近い道の駅」の管理者、指定期間満了後も明け渡し拒む異常事態…原状回復巡って町と見解相違
富士山に最も近い道の駅として知られる「道の駅すばしり」(静岡県小山町須走)で、前指定管理者が期間満了後も営業を続ける「異常事態」が起きている。施設を明け渡す際の原状回復工事を巡る前指定管理者と町の見解の相違が原因とみられる。利用者からは「トラブルで施設のイメージが悪くなるのでは」と懸念する声が上がっている。
営業続ける
背後に富士山がそびえる道の駅すばしりは2011年、オープンした。レストランや無料の足湯、土産店が設置されており、来場者数は年間30万人を超える。施設の運営を担うのは、町が公募で選んだ指定管理者だ。
町によると、前指定管理者の「観光開発」(小山町)は21年4月から施設を運営。しかし、昨年12月の公募では選ばれず、今年3月31日の期間満了までに、新しい指定管理者「名鉄ミライート」(愛知県一宮市)に建物を明け渡すことになっていた。
ところが、4月1日になっても施設は明け渡されず、観光開発が営業を続けている。
同社によると、同社は23年頃、町の許可を得て内装工事を実施。厨房(ちゅうぼう)の設備を更新し、建物内の床と壁紙を張り替えるなどした。この工事費用(総額約5000万円)は、同社が負担した。
町はこれらの設備について、本来は必要となる原状回復工事は不要とし、そのままの状態で期限内に明け渡すよう同社に求めていた。
しかし、同社は「(原状回復を実施しない場合)施設の価値向上を図った工事の金銭負担について対応が必要」と主張し、引き渡しを拒んでいる。
同社は、原状回復工事を行う場合、契約に従えば、期間終了後の4月1日から実施し、完了後に引き渡すこととなっているとしている。期限終了までに工事を終えなければならないとする町の認識とは食い違っている。
イメージ悪化心配
同社の担当者は読売新聞の取材に対し、「価値向上を図った設備への対応についてほとんど町から回答がなく、出て行くことはできない」と話した。「迷惑をかけて申し訳ないが、実施した工事に見合うお金をいただけないなら、原状回復を行い、資材を回収をすることは法的に認められている」と説明。営業を継続していることについては「利用者のために開けることが賢明と判断した」と述べた。
町は、今月1日から道の駅の暫定管理者となり、対応を続けている。町の担当者は、「(同社は)権限がない状態で営業している。一日でも早く明け渡してもらいたい」と話した。
道の駅をよく利用するという横浜市の男性(77)は「トラブルが原因で施設のイメージが悪くなったら悲しい。円滑に引き継ぎをしてもらいたい」と話した。
解体中転落の作業員3人死亡 クレーンの重りと落下か、捜索続く
川崎市のJFEスチール東日本製鉄所敷地内でクレーンの解体中に男性作業員5人が転落した事故で、神奈川県警は8日までに、救助された4人のうち3人の死亡を確認したと明らかにした。県警によると、5人はクレーンの重りの上で作業していて、数十メートルの高さから重りと共に落下したとみられる。1人が行方不明となっており、海に転落したとみて捜索を続けた。
県警は死亡した3人の身元を、いずれも会社員の千葉ケン志朗さん(19)=千葉市、小池湧さん(29)=同、上山勝己さん(43)=千葉県市原市=と明らかにした。業務上過失致死傷の疑いも視野に調べている。
事故は7日午後4時15分ごろ発生。その後の県警の調べで、5人は約30メートルの高さにあった重りの上から転落したとみられることが判明した。重りはクレーンの先端に取り付けられていて直径約6メートル、長さ約9メートルの円柱状。重さは約500トンあった。
解体作業はJFEスチールが東亜建設工業(東京都新宿区)に発注していた。
川崎のJFEスチール事故 死亡した2人の身元判明、1人依然不明
川崎市川崎区のJFEスチール東日本製鉄所の敷地内で7日、クレーンの解体中に足場が崩れて男性作業員5人が転落して3人が死亡した事故で、神奈川県警は8日、死亡した3人のうち2人は、千葉市稲毛区山王町の会社員、千葉ケン志朗さん(19)と同市緑区土気町の会社員、小池湧さん(29)と明らかにした。
40代の男性作業員1人の行方が分かっておらず、神奈川県警などは8日朝に捜索を再開。男性は海に転落したとみられ、県警や川崎海上保安署はヘリコプターや船で、上空や海上から捜索している。
行方不明男児が通う小学校で始業式 同じ学校の保護者「無事願っている」大規模捜索も手がかりなく
3月23日から行方不明になっている南丹市立園部小学校6年生の安達結希くん。有力な手がかりが得られない中、行方不明から16日のきょう8日、結希くんの通う小学校では新年度の始業式が行われました。行方不明から2週間以上が経過し、不安が広がる中、朝の登校では集団登校が行われ、学校関係者や保護者らが警察とともに通学路の見守りを強化し、交差点や死角になりやすい場所などに立ち、登校する児童を見守りました。
(小学6年生の保護者)
「結希くんの無事を願っています」
(小学4年生の保護者)
「心配だから送りに来ました。勝手な行動しないようにと子供には伝えています」
始業式には6年生と新たに入学した1年生と保護者が出席し、始業式では、校長が結希くんの無事を祈りながら、児童に語りかけました。あす9日からは全校児童が登校しての通常授業が行われるということで、引き続き登下校時の見守り活動を続けるとしています。
(結希くんの通う小学校の校長)
「結希くんの無事の発見を願って、戻ってくることを信じています。ひとりで悩んだりしない、不安な気持ちになったら我慢せずに、先生とかスクールカウンセラーの方に相談してください。新しいクラスの仲間と仲良く、元気に結希くんが戻ってきた時に明るい笑顔で迎えられるように、仲良く力を合わせてください。噂話とか本当かどうかわからないことは、話したり書き込まないようにしてください。みんなで頑張りましょう」
南丹市立園部小学校の6年生結希くんは、3月23日の午前8時ごろ、親が車で学校のすぐ近くまで送り届けたのを最後に、行方が分からなくなっています。
行方不明から6日後の3月29日には、学校から約3キロ離れた山の中で、結希くんが背負っていた黄色の通学用のリュックサックが見つかりましたが、その後、発見につながる手がかりは得られていません。
学校は4月6日夜、6年生の保護者を対象にした説明会を行い、今後は、連絡なく欠席した場合には、15分以内に保護者への連絡を徹底するなど、今後の対策を説明しました。
これまでに、結希くんが市内の防犯カメラに映ったという情報はなく、周辺の公共交通機関を使った形跡も確認されていません。
手がかりが乏しい中、警察は7日、結希くんの自宅近くの山中などを、約60人態勢で集中的に捜索しましたが、開始から10時間ほど経った夕方に規制線を解除しています。
警察は捜索について、「発表できるものはない」としていて、大規模捜索によって有力な手がかりは得られなかったものとみられますが、8日も引き続き、30人体制で周辺での捜索を続けるとしています。
情報は…京都府警南丹署 0771ー62ー0110
東アジアで未発生は日本のみ、「アフリカ豚熱」水際警戒を強化…最悪のシナリオは「国内の飼養豚4割減」
豚とイノシシの伝染病「アフリカ豚熱」の国内への侵入リスクが高まっている。近年韓国で感染が相次ぎ、昨秋には台湾でも初めて確認され、東アジアで発生していないのは日本だけになった。人には感染しないが、侵入されれば豚の殺処分を迫られ、豚肉の供給が減り、値段は上がるとみられる。農林水産省が水際での警戒を強めている。(虎走亮介、門間圭祐)
韓国・台湾でも
農水省によると、豚やイノシシがアフリカ豚熱に感染すれば、発熱や出血の症状が出て、致死率はほぼ100%。有効なワクチンや治療法はなく、養豚場で1頭がかかると他の豚への感染リスクがある。家畜伝染病予防法で家畜伝染病に指定され、養豚場には感染報告と全頭の殺処分が義務付けられている。周囲の養豚場でも、予防のための殺処分を検討する必要がある。
感染は各国に広がり、2005年以降、アフリカやアジア、欧州など84の国と地域で発生している。近隣では中国で18年に確認され、豚の飼育頭数が約4割減り、豚肉価格が2・5倍に高騰した。韓国では19年に見つかって以降、今年3月中旬までに飼養豚で79件、野生のイノシシで4416件確認された。台湾でも昨年10月に初めて見つかった。
国内では豚もイノシシも感染は確認されていない。養豚場では、野生イノシシを侵入させないための柵の設置や、スタッフらの手や靴の消毒を徹底している。養豚生産者でつくる日本養豚協会(東京)の鋤柄卓夫・専務理事は「侵入されれば、とんでもないことになる。中国や韓国のようになることは明らかだ」と危機感を訴える。
ルート
侵入ルートとして想定される一つは、飛行機や船で来日する人の靴や荷物にウイルスが付着し、運ばれるケースだ。日本と韓国や台湾の間では航空機や船の便数が多い上、移動時間が短いためウイルスの生存率は高まる。
ウイルスが付着した肉製品などの畜産物が国外から持ち込まれる恐れもある。家畜伝染病予防法は畜産物の個人による持ち込みを原則禁じている。農水省によると、昨年の違法持ち込みの摘発件数は、22万962件(速報値)。記録が残る16年以降最多で、侵入リスクが高まっている。
農水省は空港や港で、畜産物を廃棄する権限を持つ家畜防疫官と動植物検疫探知犬の出動を増やし、旅行客の手荷物や貨物を調べている。
記者が関西空港で取材した3月16日、税関検査場では検疫探知犬のラブラドルレトリバー「ガヨ号」が入国者の荷物をかぎ回った。高病原性鳥インフルエンザなど他の家畜伝染病の侵入も阻止する目的だが、アフリカ豚熱への警戒度は特に高い。関西空港では違法に持ち込まれた畜産物の摘発が1日に100件超あるという。家畜防疫官の阿部花梨さん(25)は「アフリカ豚熱を水際で防ぐ責任がある。絶対に侵入させない」と語った。
政府は3月24日、家畜伝染病予防法の改正案を国会に提出した。持ち込まれた疑いがある肉製品の販売を禁じ、家畜防疫官が外国食材店や倉庫に立ち入り検査できるようにすることを目指している。
輸入停止
食への影響はどうか。日本ではアフリカ豚熱が確認された国・地域からの豚肉の輸入を止めており、22年には感染のあったイタリアからの輸入を停止。飲食店で生ハムなどの産地を変更する動きがあった。
25年11月にはスペインでも確認され、輸入を停止。外食大手「すかいらーくホールディングス」は今年3月31日、しゃぶしゃぶ専門店「しゃぶ葉」でスペイン産の豚バラ肉の取り扱いを休止すると発表した。米国産の豚ロースに切り替えるといい、同社の担当者は「早く収束してほしい」としている。
輸入停止の影響もあり、日本国内の豚肉の卸売価格は高止まりしている。国内で感染が確認されれば、さらに値上がりするとみられている。農水省の担当者は「最悪のシナリオでは、年間に数十件確認され、飼養豚が4割減ることも考えられる。万が一国内に侵入されたとしても、全力で封じ込めを図りたい」としている。
“未経験者”4割で臨んだ再稼働、東京電力の原発14年ぶりに動く 「東京に電力送りたい」と若手運転員、2度延期の営業運転入りは間もなく?
「制御棒引き抜きを開始。原子炉起動しました」。1月21日午後7時ごろ、東京電力柏崎刈羽原発6号機(新潟県)の中央制御室で運転員が声を上げ、再稼働を宣言した。 2011年3月11日の東京電力福島第1原発事故の影響で、柏崎刈羽原発は7基全てが運転を停止し、約14年ぶりの再スタートだった。長期にわたるブランクのため原発の運転を実際に経験したことがない運転員が約4割に上る。6号機の再稼働を控えた昨年12月、全電源喪失を想定した訓練で、若手運転員が語っていた思いとは…。(共同通信=広江滋規)
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の(左から)5、6、7号機=2025年11月
▽警報発生 再稼働の様子は東京・内幸町の東京電力ホールディングス(HD)本社で、大勢の報道陣に向けて生中継された。見届けた広報担当者は「やっと再稼働できた。これからも気を抜かず、やっていきたい」と笑顔を見せた。 だが、起動から5時間半後の翌日未明、核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く途中に異常を知らせる警報が作動した。東京電力は原因を調べるため原子炉を停止した。 警報は、制御棒を引き抜く速度を調整する電気部品「インバーター」の故障を知らせるものだった。調査の結果、電流の変化を必要以上に高感度で検知する設定にしていたことが明らかになった。故障ではなく、設定を変更することで対応し、約半月後の2月9日に原子炉を再起動した。2月18日、柏崎刈羽原発で記者団の取材に応じた東京電力HDの小早川智明社長は「安全最優先で営業運転まで取り組んでいく」と語った。
柏崎刈羽原発で取材に応じる東京電力ホールディングスの小早川智明社長(左)=2月18日
▽再び不具合 「小さなトラブルは今後も起き得る。立ち止まり、原因を調べてから先に進むことが大事だ」。原子力規制委員会の山中伸介委員長が定例記者会見でこう語った後、6号機は再び不具合を起こす。 2月12日夕方、原子炉圧力容器内の中性子を測定する機器が動かなくなる不具合が発生。詳しく調べたところ、機器を圧力容器に送り込むスイッチの接触不良が原因だったと分かり、スイッチを取り換えた。 長期停止していた原発が再稼働した直後にトラブルを起こす例は多い。過去には東北電力女川原発2号機(宮城県)や関西電力高浜原発4号機(福井県)で機器トラブルによる原子炉停止があった。また中国電力島根原発2号機(松江市)では、原子炉の水位計に異常があると発表し、後に異常はなかったと訂正。中国電力は「運転員の機器についての認識が不十分だった」と釈明した。
▽4割未経験 柏崎刈羽原発は、長期停止中に稼働原発の運転を経験していない運転員が増えた。東京電力によると、2011年3月の福島第1原発事故当時、柏崎刈羽の運転員273人のうち未経験者は24人(8・8%)だったが、昨年10月末では255人中106人(41・6%)まで増えた。原子力規制委員会の審査に合格した6、7号機に限ると約6割が未経験者だ。 そのため稼働している他社の原発や火力発電所に若手を送り、研修を受けさせたり、過酷事故を想定した訓練を繰り返したりして運転員を育てている。
▽発電機を起動せよ
「緊急、非常用ディーゼル発電機3台トリップ。SBO(全交流電源喪失)」。昨年12月、柏崎刈羽原発の周辺にあるBWR運転訓練センター(新潟県刈羽村)で行われていたのは、地震で外部電源を失い、原子炉を冷却できなくなった状況に対応する訓練だ。 6号機の中央制御室にそっくりな室内は停電を装い暗くなった。設備の系統図を示す大型モニターには、制御棒が炉心に緊急挿入されたことを示す「スクラム」の文字が赤くともる。警報音が響く中、原子炉の水位が少しずつ下がり、副当直長が「電源を最優先で確保していく。GTG(ガスタービン発電機)を起動せよ」と命じた。
模擬制御室で、原発事故を想定した訓練に臨む遠藤大暉さん。大型モニターに「スクラム」と表示されている=2025年12月、新潟県刈羽村
▽ため口
この訓練で非常用発電機の起動を任されたのは2019年に東京電力に入社した7年目の遠藤大暉さん。研修生の時から運転員として柏崎刈羽原発6、7号機に配属され、日々原子炉建屋のパトロール業務などをしているが、稼働原発の運転は未経験だ。 「GTG起動だな」。遠藤さんは聞き返し、副当直長は「その通り」と返事をした。記者は年上の副当直長に対する「ため口」に若干の違和感を抱いたため、当直長経験者の広報担当者に聞いてみた。すると、敬語だと聞き取りづらいこともあり、こうした振る舞いはヒューマンエラーを防ぐためのものでマニュアル通りなのだという。
取材に答える東京電力の遠藤大暉さん
▽慌てたら負け
発電機を起動する目標タイムは20分。原子炉の水位は下がり、核燃料の頂部が露出しているとのアナウンスが流れる。「原子炉は冷却手段が今は何もない。頼りは遠藤君です」と広報担当者が記者に解説する。 見ている記者はやや焦るが、遠藤さんは分厚い手順書を載せたカートをゆっくりと押し、モニターに近づいて操作盤に取り付いた。 「最初は焦るが、何回も訓練を繰り返してきた。慌てたら負け。冷静に」と広報担当者が見守る中、遠藤さんは手順書を見ながら操作盤を動かし、現場の作業員と電話でやりとりし、大きな声で起動を宣言した。 やがて制御室は明るくなり訓練は終了。電源確保に要したのは約17分だった。直後に別室で開かれた反省会で、副当直長から評価されると、遠藤さんは「日々の訓練のたまものです」と表情を緩ませた。
▽電気を送りたい
柏崎刈羽7号機を中心に30年近く原発の運転に関わる当直長の山岸英明さんは「異常音や異臭といった五感で感じ取る情報もある。言葉で伝えきれない部分を学んでほしい」と話す。 遠藤さんに、運転員を目指した理由を尋ねたら、東京都出身だと前置きし「これまで東京で電気を使う立場だったが、自分で発電し東京に電気を送りたい」と話した。 6号機は2月16日未明、発電機を送電線に接続し、供給エリアである首都圏と静岡県東部に電気を送り始めた。3月3日に出力100%を達成。だがフル出力で試運転中の3月12日午後、漏電を示す警報が発生。発送電を停止して原因調査に当たったため、3月18日に予定していた営業運転開始は延期された。 警報の作動は、発電機とアースをつなぐ金属部品の破損が原因だと分かり、東京電力はこの部品を交換。6号機は3月22日に発送電を再開している。1月の再稼働以降、相次ぐトラブルで営業運転入りは既に2度延期された。現在は4月16日を予定する。今度こそ実現できるだろうか。