外国の運転免許証を日本の免許証に切り替える「外国免許切替(外免切替)」を行う外国人が急増している。警察庁によると、10年間で倍増し、2023年には5万人を超えた。手続きは、日本で暮らす外国人だけでなく、旅行者でもホテルを免許証上の住所にして行うことができる。外国人による交通事故が増加傾向にある中、警察庁は制度や運用のあり方の検討を始めた。(福永正樹)
今年2月、大阪府門真市の門真運転免許試験場に、府内に住む中国人の男性(54)が外免切替の手続きに訪れていた。
男性は中国・西安出身。民泊を経営するため、外国人経営者向けの在留資格「経営・管理ビザ」を取得し、昨年12月に家族4人で移住してきたばかりだ。
男性は日本語を話せないため、通訳の女性(62)を伴い、視力検査などを受けて筆記試験は合格した。筆記試験は中国語にも対応し、2択形式で10問中7問に正解すれば合格する。しかし、技能試験は予約がいっぱいで、5月に出直すという。
男性は「筆記試験は準備していたので不安はなかった」と笑顔を見せ、「仕事や子どもの送り迎えなど生活に車は欠かせない。早く免許を取りたい」と話した。
外免切替は、道路交通法に基づく手続きで、外国の運転免許証を持ち、運転免許試験場で試験を受け、日本での運転に必要な知識や技能があると認められれば、日本の免許証を取得できる。米国(一部の州)や韓国など29の特例国の国民は、無試験で手続きをするだけで交付される。
警察庁によると、23年に外免切替で免許を取得した外国人は5万6022人で、14年の2・2倍。都市部で多く、東京都が1万2204人、愛知県6174人、大阪府3378人だった。
各地の運転免許試験場には外国人が殺到し、大阪府警は昨年10月、事前予約制に切り替えた。警察庁によると、今年2月時点で千葉、埼玉、福岡を除く44都道府県で予約制を導入しているという。
手続きには、日本で暮らす外国人だけでなく、訪日外国人客も訪れている。旅行者でも、旅券と合わせて、ホテルや知人宅などから「一時滞在証明書」を発行してもらえれば、そこを住所にして免許を取得できる。
西安出身の中国人男性に付き添った通訳の女性は日本の自動車教習所の元指導員で、これまで数十人の中国人の手続きを支援した。旅行中の中国人から依頼を受けたこともあるという。
外免切替を行う外国人の目的は日本で運転することだけではない。日本は、運転の国際的な統一ルールを定めた「道路交通に関する条約(ジュネーブ条約)」に加盟しており、日本の免許証があれば、国際運転免許証を取得し、100か国近くの加盟国で運転できる。一方、中国などは未加盟で、海外で運転するために手続きに訪れるケースも多いとみられる。
中国のSNSには「日本の免許を持つと、どの国でも運転できる」「練習なしで一回で合格」などの投稿もあり、通訳の女性は「外免切替で日本の免許を取得できることは、SNSなどを通して中国で広く知られている」と話す。
海外と日本では交通ルールが異なり、外国人ドライバーによる交通事故は増加傾向にある。
24年は7286件で前年より342件増え、過去10年間で最多。外国人によるレンタカーの事故も昨年430件あり、前年から100件増えていた。
昨年8月には山梨県富士河口湖町の交差点で、外免切替で免許を取得し、レンタカーを運転していた中国人の女が、中国人観光客の夫婦をはねて死亡させ、自動車運転死傷行為処罰法違反容疑で現行犯逮捕された。
今年3月3日の衆議院予算委員会では、ホテルを住所にして免許証を取得できることの是非や、筆記試験が「簡単すぎる」との指摘が上がり、坂井国家公安委員長が「必要な検討を行っている」と答弁した。
警察庁運転免許課は「様々な指摘があり、制度や運用のあり方について、海外の制度なども踏まえ、検討したい」としている。
旅行者向けは見直し必要
加藤博和・名古屋大教授(公共交通政策)の話「ホテルなどの一時滞在地を免許証上の住所として認めると、事故の際に連絡が取れないなどトラブルになりやすい。日本の免許証を持った外国人の事故が海外で相次げば、日本の運転免許制度への信頼も揺らぎかねない。日本で暮らす外国人が増える中、ルールを知ってもらった上で免許証を交付するのは当然だが、旅行者については制度の見直しが必要だろう」