住宅倒壊級の暴風も…台風18号が奄美最接近へ 線状降水帯発生の可能性

非常に強い台風第18号は、「奄美南部を暴風域に巻き込み西寄りに進んでいて、25日遅く奄美地方に最接近する見込みです。
25日夜から26日朝にかけ、線状降水帯が発生して大雨災害の危険度が急激に高まる恐れがあります。
台風18号の接近に伴い、奄美地方では風が強まっています。龍郷町の手広海岸では、白波が次々と打ち寄せ海は荒れた状態となっています。
台風の最接近は、25日夜遅くになる見込みです。伊仙町では、25日午後、最大瞬間風速35.9メートル、天城町では32.9メートルの猛烈な風を観測しました。徳之島町亀津付近では、倒木により車のフロントガラスが割れる被害がありました。
25日午後5時現在、奄美市・与論町・和泊町など9の市町村に警戒レベル4の避難指示が出されています。また、停電も発生しています。奄美地方では25日午後5時現在、約2800戸が停電していて、復旧の見通しは立っていません。停電していない地域でも懐中電灯や携帯電話の充電など、早めの準備が必要です。
台風18号は、強い勢力を維持したまま今夜遅く奄美地方に最も近づく見込みです。暴風やうねりを伴う高波、土砂災害に厳重に警戒してください。
交通への影響です。空の便は26日も、県本土と離島を結ぶ便や、離島同士を結ぶ便など、一部の便の欠航が決まっています。日本エアコミューターは、37便の欠航を決めました。海の便は、フェリー屋久島2やフェリーはいびすかす・フェリーきかいなどが26日の欠航を決めています。最新の情報をご確認ください。
荒場気象予報士の解説です。強い勢力で奄美地方に近づく台風18号は、沖縄の東の海上まで進んでいて、25日午後6時現在、奄美地方の一部地域が暴風域に入っています。
奄美南部への最接近が、夜の遅い時間ですので、不安のある方は、早めに頑丈な建物への避難をしましょう。26日にかけて予想される最大瞬間風速は60メートル。一部住宅が倒壊する恐れもあるほどの猛烈な風が吹く恐れがあります。
今後の進路の予報円の中心は、沖永良部島付近です。25日夜遅くから、26日の朝にかけて、線状降水帯が発生して、大雨災害の危険度が急激に高まる恐れがあるでしょう。
雨・風のピークは、26日正午までの見込みです。

防衛装備庁、テラドローンと迎撃ドローンの量産契約を正式締結 国産機「Terra B1」を調達へ

防衛装備庁は8月25日、短期間での迎撃ドローン確保を目指す「迎撃ドローン早期取得プログラム」に基づき、テラドローン(東京都渋谷区)と量産調達契約を結んだと発表した。調達するのは、同社の国産迎撃ドローン「Terra B1」。
契約に先立ち、7月15日から8月6日まで、海上自衛隊が企業に委託する形で4機種の実証試験を実施しており、その結果を踏まえて契約に至った。テラドローンによると、実証試験を通過したのはTerra B1のみという。Terra B1は、長距離攻撃用自爆型無人機への対処を想定した機体だ。
契約を受け、テラドローンはTerra B1の量産を開始するほか、国内の生産・調達体制の整備や、部品・電池・通信・管制装置を含むサプライチェーンの強化などを進める。今回の海上自衛隊向けの導入を起点とし、今後は航空自衛隊や陸上自衛隊での展開も視野に入れる。
防衛装備庁はXで「募集開始から契約締結まで約3カ月という、これまでにないスピードで調達を進めている」と説明。変化する脅威に対応するため、今後もスピードを重視した装備調達に挑戦するとしている。

ICC赤根所長が制裁対象、高市首相「日本の立場と相いれない」「弱腰との批判当たらない」…赤根氏へ支援強調

高市首相は25日、米国が国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長を制裁対象に加えたことに関し、「日本の立場と相いれるものでなく、大変深刻に受け止めている」と述べた。首相官邸で記者団に語った。日本政府のこれまでの対応について、「弱腰との批判は当たらない」とも語った。
首相は米国への取り組みに言及し、「累次にわたり、様々なレベルでギリギリまで働きかけを続けた」と説明した。「赤根氏が直面する危機感、懸念は共有している」と述べ、赤根氏を支援する考えを強調した。
また、茂木外相は同日の記者会見で、外務省の中村和彦国際法局長がオランダで赤根氏と面会したと明らかにした。

下地氏、沖縄知事選に不出馬=自民と協定

下地幹郎元衆院議員は25日、沖縄県知事選(27日告示、9月13日投開票)に出馬しない方針を自身のX(旧ツイッター)で表明した。立候補の意向を示していたが、自民党と政策協定を結んだと説明した。26日に記者会見する。
これにより、知事選は米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する「オール沖縄」勢力が推す現職の玉城デニー氏と、自民などが推薦した新人で前那覇市副市長の古謝玄太氏の事実上の一騎打ちの構図が一段と強まった。
下地氏の撤退表明を受け、自民の西村康稔選対委員長は「保守系が一本化して県政奪還を目指していく」と語り、古謝氏への追い風となることに期待を示した。党本部で記者団の取材に応じた。
政策協定は子どもの貧困対策予算の確保や沖縄本島への鉄軌道導入などの内容。西村、下地両氏が25日に東京都内で面会し、合意したという。
2022年の前回知事選で、下地氏は約5万4000票を集めた。自民推薦候補の得票と単純に合計すれば玉城氏に迫っており、自民は今回も保守票の分散に懸念を強めていた。 [時事通信社]

危険感じる暑さ続く被災地、生活再建の足かせに 熱中症リスクで「長時間作業できない」

7月の地震で最大震度7を観測した熊本県の被災地は連日、命の危険を感じさせるような暑さに見舞われている。県内では25日、最高気温が40度以上の「酷暑日」に迫る暑さとなった。猛暑は熱中症リスクだけでなく、復旧作業の遅れを招く恐れもあり、被災者の表情は険しい。
25日午後3時過ぎ、同県氷川町内の小学校には、各地から届けられた食料品を求める被災者で長蛇の列ができていた。同町の70代女性は支援物資を手にすると安堵(あんど)の表情を見せたが、屋外に出ると表情を一変させて「暑い…」。肌に突き刺さるような強烈な日差しを浴びた女性は大粒の汗をタオルで拭った。
気象庁によると、25日は県内各地で猛暑日となり、八代市では観測史上最高となる39.1度を観測。猛烈な暑さは連日続いており、日常を取り戻そうとする被災者の足かせになっている。避難所に身を寄せながら自宅の片付けを進める宇城(うき)市の無職女性(74)もその一人だ。女性宅の冷房機器は故障したままといい、「暑さ対策をしても長い時間の作業はできない」とこぼす。
一方、八代市では生活用水として使用している井戸の水が途絶えたことで痛手を受ける世帯も。同市の男性会社員(63)は「何をするにも水がいる。打撃は深刻だ」とうつむいた。
厳しい暑さにどう立ち向かえばよいのか。熱中症に詳しい医師で総合南東北病院救急集中治療科の平山一郎科長は「暑い環境に長時間いないことが重要だ」と指摘。可能な限り涼しい場所で過ごすことと、水分補給の際には電解質(ナトリウム)を含む経口補水液などの摂取を勧める。
熱中症が疑われる場合の対応で明暗が分かれる可能性もあるとして、平山医師は「意識がはっきりしていて自分で水分を摂取できる場合は経口補水液などを飲んでもらう」と対策を話す。
仮に意識がもうろうとしていたり、反応がおかしいと感じたらすぐに体を冷やす対応が必要となるという。災害時には体を冷やす資材が不足している可能性もあるとして、「水でぬらしたタオルや衣服を体に当てて、うちわなどで風を送る方法も有効だ」と語った。(星直人、浦柚月、藤澤拓光)

宮崎県日南市に2.4億円の賠償命令 規制の説明義務違反を認定

宮崎県日南市の国定公園内に建物を新築したコンサルティング会社(東京)が、市が公園内の建築に関する説明を怠ったことで違法建築として撤去を余儀なくされたとして市に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は25日、ほぼ請求通り約2億4600万円の賠償を命じる判決を言い渡した。舟橋伸行裁判長は市に説明義務違反があったと認定した。
判決などによると、コンサル会社は2021年、日南市の海岸近くの土地に2階建て約300平方メートルの住宅建設を計画し、23年に建物が完成した。しかし、現場は自然公園法で新規の建設が規制されていることが県の調査で判明。違法建築だとして県は25年にコンサル会社に建物の撤去を命じた。
判決は、設計会社の建築士が22年6月に規制の有無や手続きの確認のために市を訪れた際、交付された書面には規制に関する記載がなかったと指摘。市の担当者には規制の知識も不足しており、市側が規制について説明しなかったと結論付けた。適切な説明がなされていればコンサル会社は公園内に建築しなかったとし、工事代金2億2000万円や設計費用などが損害に当たると判断した。
日南市は「判決内容を精査して今後の対応を検討する」とコメントした。【菅健吾】

関東から西で猛暑日続出日田は39℃予想 北日本は日本海側から雨雲のエリア広がる 台風の影響で大東島地方は夜から暴風のおそれ

【関東から西で猛暑日続出日田は39℃予想】 太平洋高気圧の勢力が強まっていることで、東日本や西日本では35℃以上の猛烈な暑さとなるところが多くなるでしょう。大分県の日田は39℃の予想で、酷暑日に迫るおそれがあります。東京都心もきのうより3℃高い、34℃まで上がる見込みです。炎天下を避けて涼しい場所で過ごすようにしてください。
きょうの各地の予想最高気温は、 札幌 :31℃ 釧路 :26℃ 青森 :32℃ 盛岡 :31℃ 仙台 :31℃ 新潟 :32℃ 長野 :34℃ 金沢 :35℃ 名古屋:37℃ 東京 :34℃ 大阪 :37℃ 岡山 :37℃ 広島 :37℃ 松江 :37℃ 高知 :35℃ 福岡 :36℃ 鹿児島:34℃ 那覇 :33℃
【北日本は日本海側から雨雲のエリア広がる】 北海道の北には低気圧や前線があり、湿った空気が流れ込む北日本の日本海側では午前中から雨の降るところがあるでしょう。午後は北海道や東北で雨雲の範囲が広がります。また、晴れる東日本、西日本も中国、四国から関東にかけて午後は急な激しい雷雨に注意が必要です。
【台風18号の影響で沖縄の大東島地方は夜から暴風のおそれ】 非常に強い勢力の台風18号は、午前6時の時点で日本の南にあって、西北西に進んでいます。今夜には沖縄の大東島地方が暴風域に入る見込みで、あすの夜には沖縄本島にもかなり近づくでしょう。大雨や暴風、高波、高潮に警戒が必要です。

自宅に届く偽の逮捕状 特殊詐欺、ビデオ通話から変わった手口

兵庫県内で警察官などをかたって偽の逮捕状を送りつける特殊詐欺が今年に入って増加している。偽の逮捕状をビデオ通話で見せる手口などは従来もあった。県警は、ビデオ通話に慣れていない高齢者をターゲットにしている可能性もあるとみて注意を呼び掛けている。【山下理恵】
6月までに相談件数20件
県警によると、今年6月までの相談件数は20件。被害届は8件あり、うち5件で現金がだまし取られた。
三木市内の80代の女性宅には1月、固定電話に検察官や警察官を名乗って「あなたに犯罪の容疑がかかっている」とうその電話があった。その後、逮捕状のような文書が送りつけられた。女性は指示されるままに現金を入れた袋を4回にわたって自宅前に置き計3165万円をだましとられた。
登場人物多く、手が込んだケースも
尼崎北署によると、尼崎市内の80代男性は6月下旬、郵便局員を名乗る人物から「睡眠薬が100錠届いている。取りに来てほしい」と電話を受けた。その後、検察庁をかたる人物から「薬物所持で逮捕状が出ている」と電話があり、連絡が来ていることを家族に話さないよう口止めされた上で、住所や氏名、預金残高などを細かく質問された。
数日後、男性宅に差出人不明の速達郵便が届き、近くの交番で警察官とともに中身を確認。男性の名前が書かれた偽の逮捕状などが入っていたという。
一方、同市内の70代女性は6月中旬から毎日のように「東京であなた名義の口座が開設されている」と警視庁の警察官を名乗る人物から電話を受け、同月下旬にLINE(ライン)のビデオ通話などへ誘導された。口座や残高を聞き出され、一日の間に複数回の通話を求められた。女性が「娘がよく様子を見に来る」と話すと「何時ごろ」と詳細を聞きだそうとされたという。
署によると、家族に相談する時間も与えずに孤立させようとしていたとみられるが、女性は娘に相談。この人物からのラインの受信を拒否した。すると、女性宅に偽の逮捕状が入った差出人不明の速達郵便が届いた。
この2人に届いた郵便物は同一のもので、いずれも都内の郵便局の消印で送られてきた。書類にあった警察署や裁判官の名前は実在したが、所属が違うなど誤っている部分もあった。偽の逮捕状も本物と比べると枠の大きさや文書内容が異なっていた。
県警によると、警察官などをかたり「逮捕される」と現金を要求する手口の標的は20、30代が中心で、ビデオ通話で逮捕状などを見せて信用させていた。だが、ネットリテラシーがある若者は被害防御力も高いため、ビデオ通話に慣れていない高齢者に狙いを変更。実際に送って信頼性を高めている可能性があると推測する。ビデオ通話ができても郵送されたのは特殊詐欺グループのマニュアルに従っていたとみられるという。
県警は「事前に逮捕されますよと予告することも、逮捕状を送りつけることも絶対にない」と注意を呼び掛けている。
被害、歯止めきかず
県内の特殊詐欺の被害件数は6月末時点で前年同期比98件増の1517件。被害総額は同34億2000万円増の115億6000万円に上り、被害に歯止めがかかっていない。

《特急スペーシアX・4人死亡》「見張りがちゃんとしてたら…納得できないよ」作業員と同居する兄が激白「弟は朝5時に弁当を持って出勤」「特に日光線は気をつけないと」

〈《特急スペーシアX・4人死亡》作業員4人が線路内にいるのに「退避完了」の合図…見張員同士は“意思疎通できず”、東武鉄道も「なぜ合図が上げられたのか…」〉から続く
栃木県鹿沼市の東武日光線・新鹿沼駅構内の上り線で、特急「スペーシアX2号」が除草作業にあたっていた男性作業員4人に接触し4人全員が死亡した事故で、犠牲者の一人の兄が取材に「見張りがちゃんとしてたら事故なんか起きない」と悲痛な胸中を語った。自身もかつて東武鉄道の線路周辺の作業に従事したことがあるという兄は、列車がそばを通り過ぎる場所での仕事は「おっかない」と話し、仲が良かった弟の死を悔しがった。
《画像》「兄貴って呼んでるような気がして…」目を真っ赤にして取材に応えるAさんの兄
「納得できない」亡くなった2人の作業員と暮らしていた兄
事故では、東武鉄道が除草業務を発注した元請けの東武建設(栃木県日光市)の社員1人と、同社からさらに発注を受けた孫請けのX建設から現場に送り込まれた3人の作業員が亡くなった。
このX建設関係の3人のうち、宇都宮市に住んでいたAさん(65)の兄、Bさん(74)が思いを話した。
事故翌日の21日夜、集英社オンラインがAさんとBさんの兄弟が一緒に暮らしていたマンションの一室を訪ねると、Bさんは当初「どうしょうもない。弟は死んじゃってんだから。話すことはない」と、最初は話すことを拒んだ。だが「(弟の死を)納得できるわけねえだろう」とやり場のない感情を記者にぶつけたのを機に、ぽつりぽつりと弟の記憶を話し始めた。
「うちは、俺が22歳の時に父ちゃんが56歳で亡くなった。弟は小さい時に父ちゃんがいなくなったんだ。姉ちゃんも母ちゃんもいたけど、今は亡くなり、親戚は縁遠いので兄弟2人でやってきたんだ。弟は兄思いで、俺のことを『兄貴』と呼んで、ケンカなんかしたことなかった」(Bさん、以下同)
Aさんは事故現場に近い今市(現日光市)で生まれ、県内の高校を卒業した後、兄とともに長年建設関係の仕事をしてきたという。
「弟もおれも、土建関係ならいろんな仕事をやったよ。なんでもやった。それこそ線路の除草も。だから弟が線路上の作業に不慣れな素人だということではない。この何年かはX建設に働きに出て東武建設の仕事の下請けに入ることが多くて、週に5日は出ていたし、忙しくて頼まれれば土曜日にもよく出勤していたよ」
実は、今回の事故で亡くなったもう一人のX建設関係の作業員Cさん(57)も、AさんBさん兄弟と同じ集合住宅のワンルームで暮らし、毎日Aさんの車で一緒にX建設に言われる現場へ働きに行っていたという。
「C君は同郷で小さい時から知っていて、仲がいいので一緒に暮らしていたんだ。弟とC君は毎日、朝ご飯を食べて弁当を自分たちでつくり、5時か5時半には家を出ていった。夜は俺がごはんを炊いて待っていて、2人が帰ってきておかずをつくり、いつも3人で夕食を一緒に食べていたんだ」
兄の生活を支えてきた弟
Bさんは長年力仕事を続けた末に両膝を痛めて昨年手術し、今年6月には心臓の不調も見つかったために今は働きに出られない体だ。
そして事故があった20日も、AさんとCさんは朝5時ごろに「仕事行ってくる」と言って元気に出かけて行ったという。事故はその約6時間後の午前10時46分ごろに起きた。
「あの日おれは事故のことを知らず、用事があって午後1時ごろに弟に電話したんだ。そうしたらつながらないので『おかしいな』と思っていたら、弟が事故で死んだって知り合いが電話してきてくれたんだ。
車で迎えに来てもらって鹿沼警察署へ行って、遺体確認をさせられたよ。最近は遺体を直接見せると倒れてしまう遺族がいるから遺体の写真を見せるそうで、弟の写真を見せられたよ」
東武鉄道の説明では事故当時、現場には東武建設の社員2人とX建設から送られた5人の他、警備会社2社から来た見張り3人の計10人がいた。
東武日光方向から新鹿沼駅に近づいた列車は、上りホームの手前にある、使われていない旧ホームのそばで4人に接触している。その現場から約80メートル手前には「列車見張り員」が、同315メートル手前の踏切には「中継見張り員」が、それぞれ一人ずつ配置されていた。
このうち中継見張り員は、「(列車見張り員との)意思疎通が取れない状態にあった」と事故後にと東武鉄道の聞き取りに対して供述。さらに列車運転士の話では、中継見張り員のそばを通り過ぎて現場まで約215メートルの地点に差し掛かった時に、より現場に近い位置にいる列車見張り員から、進入可能を意味する「列車接近了解合図」が手旗で送られたという。
この合図は現場の線路上にいた4人の退避完了を確認しなければ発出されないものだったが、実際には4人は退避をできていなかった。時速約52キロで駅構内に入った列車の運転士は直近で4人に気づいて非常ブレーキを作動させたが間に合わなかったという。
「特に日光線は気をつけないと…」
栃木県警や東武鉄道は、作業員が退避していないのになぜ列車に「進入可」のサインが送られたのを中心に調べているもようだ。この状況にBさんも憤りを隠せない。
「おれも鉄道関係の仕事をやったから分かるけど、ちゃんと気を付けてくれなきゃだめだよ。線路のそばの仕事は、下り(列車)が行ったら上りがすぐ来るし、おっかないんだよ。 特に日光線は気をつけないとだめだ。おれは(東武の)鬼怒川線でも宇都宮線でも仕事をやったけど、この2つは単線だった。だけど日光線は複線だから電車も頻繁に来るので危ないんだよ。見張りがちゃんとしてなかったんだよ。ちゃんとしてたら事故なんか起きないよ…」
弟の死を知らされて丸一日以上が経って記者が会ったとき、Bさんはそれまで何も口にしていないといい、「食べられるわけないべ。頭おかしくなってんだから」と焦燥しきった様子だった。
弟とCさんとの3人の生活から突然一人取り残された兄。「生きていくほかねえべ。なにがなんでも死ぬわけにはいかねえから。まいった…」と、自分を奮い立たせる言葉と嘆きを何度も独りごちた。
「弟の魂がずっとそばにいて、『兄貴』『兄貴』って呼びかけているような気がしてるんだ」とも口にしたBさんに、どんな弟さんでしたか、と聞くと「最高だべ」とだけ口にし、目を真っ赤にして言葉を詰まらせた。
※「集英社オンライン」では、今回の事故に関連した情報を募集しています。下記のメールアドレスかXまで情報をお寄せください メールアドレス: [email protected] X(旧Twitter): @shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

〈《特急スペーシアX・4人死亡》「なぜ…」事故直前に作業指揮者の“上役”が作業員と危険な場所に入っていた謎…現場の責任者は誰だったのか? 遺族は「取り返しがつかない」〉へ続く

高額療養費制度改変で困る人、困らない人…政府が繰り返し強調する「年間上限の開始」という甘い言葉の落とし穴とは

〈「ご議論いただきました」と答弁するだけ…高額療養費制度と高市首相の当事者性とは? 患者団体が専門委員会で訴えたこと〉から続く
2026年の8月1日に高額療養費制度の自己負担上限額が引き上げられた。今回、「年間上限の開始」という言葉を政府は何度も繰り返してきたが、その運用には「償還払い」という制度が潜んでおり、実際に窓口で支払う必要がなくなるわけではない。
【図】いま健康な人でも知っておきたい各所得区分ごとの1ヶ月あたり自己負担上限額
ジャーナリスト・西村章氏が、高額療養費制度をめぐる一連の議論を振り返りながら、多数回該当の問題など、今回施行された制度の落とし穴についてわかりやすく解説する。
ついに8月1日から、高額療養費の自己負担上限額が引き上げられた。前回の引き上げは2015年だったので、それ以来11年ぶりの実施になる。今回の引き上げは2024年末に提示された〈見直し〉案が契機になったが、このときの案は制度を利用する当事者の声をまったく聞いていなかったことや、引き上げ額のあまりの高さが大きな反発を招き、2025年3月に石破元首相の判断でいったん一時凍結に至った。
その後に患者団体などを交えた専門委員会を設置して議論が再開し、2025年末に政府があらためて作成した〈見直し〉案が、今回施行される内容だ。まずは、その具体的な金額を紹介しよう。続いて、2026年度予算案の一環として議論されたこの〈見直し〉案が施行に至るまでの経緯を簡単に整理してみたい。
充分な配慮がなされた制度運用なのか?
今回の高額療養費制度〈見直し〉のうち、この8月1日からの引き上げが決定している自己負担上限額とそれぞれの引き上げ幅は、以下に示す表のとおりだ。
[表1:2026年8月からの高額療養費自己負担上限額]
現行制度から今年8月の実施金額を比較した引き上げ率を見ると、どの所得区分でも7パーセント前後(しかも住民税非課税層の場合は約4パーセント)、と穏やかな水準に抑えられているようにも見える。また、多数回該当(直近12ヶ月のうち上限額に3回以上達すると、4回目からはさらに上限額が引き下げられる制度)の据え置きと年間上限額新設も考えあわせれば、今回の引き上げは、今国会で高市早苗首相や上野賢一郎厚労相が何度も繰り返していたように「長期療養者や低所得の方々に特に配慮をした」制度運用、と見えるかもしれない。
たしかに、年間上限の新設は画期的だ。この年間上限の導入は患者団体が厚労省の専門委員会や超党派議員連盟を通じて政府へ懸命に訴えてきたことで、それが反映された結果、現役世代では月額計算が基準の高額療養費制度に、初めて「年間」という考え方が持ち込まれることになった。多数回該当の金額据え置きとともに、これは今回の〈見直し〉の数少ないポジティブな部分といっていいだろう。
とはいえ、制度利用者の立場からみれば、この〈見直し〉は充分に配慮されたものとはいいきれない。
前々段落では総じて約7パーセント前後と記したが、具体的な引き上げ金額は高所得の区分アだと1ヶ月1万7700円、比較的低所得の区分エでは3900円だ。制度を利用しない健康な人ならば、「それくらいなら払えるだろう」と思うかもしれない。経済事情や金銭感覚は千差万別で、負担感の軽重も個々人の生活環境によって様々だろうから、「過重な負担だ」vs「がんばれば払えるはずだ」という主張は水掛け論になる可能性が高い。
ならば、この負担感の重さ / 軽さを他の何かに置き換えて考えてみよう。
たとえば、高負担感が限界に達していると巷間よくいわれる社会保険料が1ヶ月あたりこの金額分だけ上昇する、と想像してみればどうだろう。突然の大病や大ケガで肉体的にも精神的にも、そして仕事を休むことによって経済的にも疲弊している当事者が直面する医療費負担の重量感を、健康な人々も少し想像しやすくなるかもしれない。
8月からの上限額引き上げが決まるまで
先日閉会した今国会では、2025年末に政府が示したこの〈見直し〉案に対し、野党各党が様々な問題点を指摘した。専門委員会で議論に加わった患者団体の関係者たちも衆参両院の厚生労働委員会と予算委員会に公述人や参考人として招致され、〈見直し〉案が患者の要望を充分に反映していないことや、この案が実施されると多くの制度利用者に負担増となって悪影響が及ぶことなどを証言した(この政府〈見直し〉案や現行制度の様々な問題の詳細については、過去の連載記事や、4月に刊行された拙著『高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉』(集英社新書)をご参照いただきたい)。
この国会では、衆参議院の厚生労働委員会でも予算委員会でも、高市首相と上野厚労相は野党側からの質問に対して官僚の用意した定型句的な答弁を繰り返すばかりで、野党側質問と政府側答弁の論旨が噛み合うことはほとんどなかった。結局、2025年12月末に閣議決定して政府が示した〈見直し〉案はなにひとつ修正されないまま2026年度予算が成立し、これにより、2026年8月からの自己負担引き上げも事実上確定した。
この予算成立以降は4月と5月に健康保険法等改正案が議論され、OTC類似薬(市販薬と同等の成分・効能を持つ処方薬)の扱いなどとともに、高額療養費制度の運用課題などが議論に上った。これらの問題に関しても、予算案審議と同様に政府側はまともに取り合う様子をほとんど見せなかった。だが、この議論の場となった衆参各厚生労働委員会では、法案通過に際し、野党側が指摘してきた課題などが「付帯決議」として盛り込まれることになった。
具体的には、衆議院の付帯決議では全十七項目のうち、第十項から第十二項までが高額療養費制度に関する記述になっている。
第十項は、治療時の収入変動(減少)、扶養家族などの要素に留意することや、支給に関する事項を定める際には当事者・学識経験者・保険者などが参画する社会保障審議会で充分な意見を聞くこと。第十一項が、多数回該当や年間上限に該当しない(短期の)制度利用者も医療アクセスが阻害されないよう留意すること、引き上げの影響を詳細に検証し、必要に応じて速やかに見直すこと、保険者間格差の是正を進めること。第十二項では、多数回該当リセットや複数診療科合算などの課題を改善するように検討を進めること、等々が記されている。参議院の付帯決議では第十一項から第十四項が高額療養費関連で、内容は衆議院のそれと同様だ。
法案可決に際してこれらの付帯決議が記されたことは、2024年末の当初案判明時から患者団体が与野党議員に幅広く粘り強い要望活動を続けてきた努力の成果といえるだろう。また、彼らの要望を真摯に受け止めた与野党議員の誠意の反映、といってもいいかもしれない。いずれにせよ、自己負担上限額引き上げの影響に対する配慮の要請が、付帯決議とはいえこのように明文化されたことの意義は大きい。
ただし、付帯決議は本則でも付則でもないため、法律としての拘束力はない。たとえば、これから行われる制度運用の実態が、付帯決議に「~に留意すること」と記された事項にそぐわないものであったとしても、法的な罰則は下されない。その意味では、付帯決議はあくまでも道義的責任の範疇を超えるものではないため、高額療養費に関する今後の議論はけっして楽観視できるわけではない。
たとえば、上野厚労相は2026年8月の引き上げと2027年8月の引き上げ案を「パッケージ」として実施する、と何度も述べている(2026年4月2日参議院厚生労働委員会、4月7日閣議後記者会見等)。また、7月24日には改正健康保険法に関連する政令を閣議で決定した。これにより、政府は2年越しの二段階引き上げも決定したことになる。
一方で、上記の付帯決議には「制度の見直しによって、国民の健康状態の悪化や医療費の増大につながることのないよう、所得区分別、年齢別、疾病別など詳細な影響を継続的に検証し、必要に応じて速やかに見直しを行うこと」(衆議院第十項、参議院第十二項)と記されている。
この改正健康保険法について厚労省が配布した資料では、「高額療養費の支給要件を定める際には、特に長期療養者の家計への影響が適切に考慮されるよう、法律上明確化する」と記し、その施行日は「令和8年8月1日」とされている(資料P1)。つまり、今年8月1日に実施する引き上げの影響を検証せずに来年8月の引き上げも「パッケージ」として実施するのであれば、政府は上記の付帯決議を無視している、と批判されてもしかたないだろう(とはいえ、それが「法律違反」にならないことは上記説明のとおり)。
いずれにせよ、7月24日の閣議決定からも明らかなように、政府は今年8月の引き上げで発生する影響を考慮せずに来年8月の引き上げも自動的に、、、、行うつもりでいるようだ。
2025年12月24日の第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会で厚労省が配布した資料でも、その実施による財政影響と保険料軽減効果について、「令和8年度満年度ベース(令和8年8月施行分)」「令和9年度満年度ベース(令和9年8月施行分)」と、各年度の試算と2年分の財政影響全体を示す推計値として記されている。ちなみに、今国会で「1ヶ月あたりペットボトル1本分程度の保険料軽減」と野党議員が指摘していたのは、こ22年分の財政影響全体に基づいた数値だ。
しかし、2024年12月に政府が提示した当初の〈見直し〉案が翌年1月から3月の国会で紛糾した際に、野党や世間から全方位的な批判を浴びた政府は、2025年8月から2027年8月まで3年越しで計画していた引き上げ案のうち2年目や3年目の引き上げ分を見送る、といった段階的譲歩を行っていた。それを想起すれば、今回の〈見直し〉も2026年と2027年の引き上げ分をそれぞれ独立して議論することは充分に可能なはずだ。
そもそも、各年度の自己負担上限額引き上げは、各年度の予算案に紐付いた議論として年度ごとにその是非や妥当性が精査されるべきものだろう。厚労省はこの負担引き上げによる社会保険料抑制効果のみを前面に出して主張するが、今回の引き上げの発端は、こども未来戦略加速化プランに必要な「子ども・子育て支援金」の資金調達として、高額療養費に白羽の矢が立ったからであった(この詳細は『高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉』第2章 part1を参照)。
そうであればなおさら、自己負担上限額引き上げによる公費節約効果は、当該年度の予算案に関連する事項として議論するのが本筋だろう。
依然として存在する「制度の落とし穴」
ここで、今回の〈見直し〉によって発生してしまう「制度の落とし穴」について、私事で恐縮だが、つい最近の筆者自身に発生したケースを例に説明してみたい。
書籍でも述べたとおり、筆者は自己免疫疾患の治療のために2009年以来、16年以上にわたってこの高額療養費制度を継続利用してきた。生物学的製剤を8~12週間隔で投与するため、制度を利用しはじめた2009年の最初の3ヶ月を除き、以後はずっと治療月には多数回該当が適用されてきた。
ところが、まったく予想外だったのだが、今年5月の治療では多数回該当が適用されなかった。長年使用してきた生物学的製剤の薬価がこの4月から引き下げられたことにより、その3割負担分(通常の窓口支払い金額)が自己負担上限額に届かなくなったのだ。
具体的には、これまで治療のたびに月額で4万4400円を支払っていたところが、免疫抑制剤などの併用する処方薬代も含めると、ほぼ4万円ちょうどくらいの金額になった。過去16年間と比べると治療月に支払う費用は約4000円程度安くなったわけで、ごく短期的な自分のフトコロ事情だけを考えれば、薬価引き下げで金銭的に少し助かることになった、といえるだろう(薬価引き下げの医療者や製薬事業者への影響はここでは議論しない)。
ただし、自己免疫疾患の治療は一生続く。現在は寛解状態を維持しているとはいえ、今後ふたたび病状が進行しはじめた場合には、生物学的製剤の投与量を増やしたり別の薬剤に切り換えたりする必要も生じるだろう。その際には、すでに多数回該当の適用からはずれているので、一般の月額上限が適用されることになる。たとえば区分ウの場合だと、この8月1日から適用される新たな上限額の8万5800円を3回払って、4回目からようやく多数回該当が適用される。毎月の投薬治療なら4ヶ月後、2ヶ月に1回の治療だと8ヶ月後になる。
さらに、投与量の増量などで、月額の治療費窓口支払い(3割負担分)がたとえば8万2000円程度になったとしよう。この金額は、現行制度であれば月額上限(8万0100円)に達しているが、8月1日以降の新制度では、月額上限(8万5800円)に数千円ほど届かない。
つまり、いつまでたっても高額療養費が適用されず、33負担分の8万2000円を治療のたびに延々と支払い続けることになる。
そのような制度の落とし穴に陥ってしまった者を救済するのが、今回から新たに導入される年間上限の設定だ。区分ウとエの年間上限は53万円に設定されている。新たな月額上限までわずかに届かない8万2000円を毎月払い続ける場合だと、7ヶ月目の支払いで年間上限を4万4000円オーバーする(8万2000円×7=57万4000円)。そのため、この月は3万8000円(8万2000円-4万4000円)を支払うだけでよく、以後の月からは治療代が発生しないことになる。
ただし、治療が2ヶ月に1回の場合だと、治療費(8万2000円×6=49万2000円)はこの年間上限額に到達しない。多数回該当が適用されていた時期の年間支払額(4万4400円×6=26万6400円)と比較すると、1年間で支払う治療費は22万5600円が増加しているため、以前の倍近い医療費負担になる。しかも、この金額だと新設される年間上限の恩恵にもあずからない。
以上の計算は、筆者の症状が今後悪化した場合を想定した、あくまでも仮の治療費計算にすぎない。とはいえ、このような事例は様々な慢性疾患の当事者や長期治療を受けている人にも発生する可能性があるだろう。
年間上限が多数回該当12回分の費用を基準にしていることはすでに述べたとおりだが、厚労省の資料によると、1年間に高額療養費制度を利用した人のうち12回の利用者は、全体の0.2パーセント相当の15万人と推計されている。
一方、3回から6回の利用は65万人。この厚労省資料は「ごく粗い推計」と断り書きがついているので、推計値の正確性は措くとしても、1年間のうち毎月ずっと高額療養費を利用している人よりも、数ヶ月に一度の頻度で利用している人のほうがおそらく数倍規模で多い、という傾向は見て取れる。じっさいに、『高額療養費制度』の書籍で紹介した、東大大学院五十嵐中准教授(当時/現・慶應大学大学院特任教授)による国保と健保組合のレセプトデータを元にした推計でも、多数回該当の対象者は4~6ヶ月の利用が大きな山になっている(上掲書P149)。
以上のような事情を考えると、多くの制度利用者を救済するためには、将来的に年間上限をさらに引き下げることも検討する余地がありそうだ。たとえば、多数回該当4~6回程度の金額に設定すれば、筆者が陥ったような多数回該当と年間上限の落とし穴にダブルで嵌まるリスクは、さらに避けやすくなるだろう。そもそも高額療養費制度は、現在でもかなりの「高額」な医療費を支払う制度になっているという事実を、とくに政策担当者や政府関係者諸氏には直視していただきたい。
年間上限額の問題点とは
さらにもうひとつ、年間上限に関連する注意喚起をしておきたい。8月1日からスタートしたこの年間上限は、すでに述べてきたとおり、「1年間(8月1日~翌年7月31日)の医療費支払いが一定額を超えると、それ以上は支払いをしなくてすむ」という制度だ。しかし、今年から始まる制度運用では、年間上限額(たとえば区分ウやエの場合は53万円)を超えた月から病院窓口の支払いが自動的にすぐゼロになる、というわけではない。
厚労省が3月19日に公開した資料(図1)には「月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間の上限額に達した後は、それ以上の医療費の支払いは不要となります」と記されている。これを読む限りだと、あたかも上限到達後の窓口支払いはいっさい不要であるかのように見える。一方、6月25日付の厚労省ウェブサイト告知(図2)では、「月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間の上限額に達した後は、それ以上の医療費については、保険者から還付を受けることができます」と記されている。
[図1:3/19付厚労省資料の年間上限に関する記載]
[図2:6/25付厚労省ウェブサイトの年間上限に関する記載]
誤解のないように明記しておくが、厚労省は年間上限の運用が当面は償還払い(利用者がいったん医療費を病院窓口で支払い、後日に自分の健康保険に申請して超過分を払い戻してもらう方式)であることを別段、隠していたわけではない。じっさいに、2月や3月の国会予算案審議でも公明党議員などが、償還払い方式ではなく窓口支払いが不要になるシステムが完備するまで〈見直し〉案の検討を凍結すべきだと指摘している。事情をよく知る者の間では、これは発表当初から問題視されていた事項だった。
とはいえ、一般の高額療養費制度利用者の間では、「年間上限の開始」のみを政府は何度も繰り返してきたために、上限到達後はいっさい支払いが不要になると思いこんでいた人、あるいは今も思いこんでいる人は、きっとたくさんいるにちがいない。当面のあいだは窓口支払いが必要になることを知らなかった場合には、その場になって治療に必要な資金の調達に慌ててしまう場合もあるだろう。その意味では、無用な混乱を避けるためにも厚労省は自分たちのセールスポイントだけではなく、制度利用者に負担を強いる側面についても、もっと早い時期からわかりやすい説明をしておくべきだった、という指摘はしておきたい。
この償還払い(超過分の払い戻し)が行われるまでの時間は保険者によって様々に異なる可能性があり、具体的なことは自分が利用している健康保険に問いあわせるのが確実だろう。
文/西村章
高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉
医療費が高額になった場合、自己負担額を一定に抑える「高額療養費制度」。 自己免疫疾患の治療で長年この制度を利用してきたジャーナリストは、2024年冬に政府が発表した「改悪」案に不安と憤りをおぼえ、取材を開始する。 疾患当事者や研究者、政治家などの証言が浮き彫りにしたのは、健康に「格差」がある日本社会の現状や、セーフティネットとして十分に機能せず、〈世界に冠たる〉とは到底いえない医療保険制度の姿だった。複雑で入り組んだ高額療養費制度の問題を、一般書として初めて平明かつ多面的に解明する! ◆目次◆ 第1章 高額療養費制度とは何か 第2章 part1 政治的・財政的背景から読み解く〈見直し〉案 第2章 part2 患者団体は〈見直し〉案凍結と変更をどう実現させたのか?――天野慎介氏に訊く 第3章 2024・2025年の〈見直し〉案をひもとく――安藤道人氏に訊く 第4章 高額療養費制度に潜む「落とし穴」を検証する――五十嵐 中氏に訊く 第5章 「魔改造」を施された日本の医療保険制度と高額療養費――高久玲音氏に訊く 第6章 part1 司法の視点から高額療養費制度を検証する――齋藤 裕氏に訊く 第6章 part2 立法の視点から高額療養費制度を検証する――中島克仁氏に訊く 第7章 「健康格差」解消のために、どのような医療保険制度を構想すればよいのか?――伊藤ゆり氏に訊く 第8章 大局的な視野から日本の医療保険制度と高額療養費制度を考える――二木 立氏との一問一答