岐阜県関市が市の知名度向上などを目的に補助金2000万円を交付した映画「名もなき池」を巡り、交付要件を満たさないとして市が補助金返還を要求している問題で、制作者側が4日、名古屋市内で記者会見を開き、「法律的な根拠がない」などとして応じない考えを示した。関市は15日を期限に返還を求めている。(杉本奏)
記者会見には、制作した総合企画会社「IROHA STANDARD」(兵庫県豊岡市)の執行役員で監督兼プロデューサーの新原光晴氏(54)、社長の系谷瞳氏(43)、同社代理人弁護士の錦見輔氏(43)が出席。錦見氏が「関市、市民にご心配をおかけしている。申し訳ありません」と述べ、2人も頭を下げた。
映画を巡っては、市が補助金の交付要綱や募集要項に記した「3月31日までに複数の映画館で4週間以上公開」「試写の実施と完成の確認」といった要件を満たさないと判断。3月27日、同社に補助金全額の返還を求める通知を送った。
錦見氏は、2023年6月に市に作品の説明をした際に「海外の映画祭など海外公開を先行させることを予定し、25年3月末までに国内で上映できない」と伝え、市職員から了承を得ていたほか、市役所などでの試写を市の担当者に断られたなどと主張。返還する法律的な根拠がないとした。
制作には補助金2000万円を含む約4300万円を投じたという。作品自体は3月28日以降、県外の2館で上映が始まった。
俳優の動きとセリフとのずれを指摘された新原氏は「時間がなく、間に合わない部分があった。大変申し訳ない」と謝罪。市のPRになっているのか問われると、「マイナスの宣伝にしかなっていない」とし、「完成した形でもう一度届けたい気持ちがあるが、現実問題難しい」と話した。
市観光課の担当者は読売新聞の取材に「映画祭に出品し、3月31日までに上映できないことを了承したやりとりの記録や記憶はない」と話した。市は記者会見の発表内容を精査し、弁護士と対応を協議する方針。
ずれる音声、音割れも
映画「名もなき池」は、兵庫県洲本市の映画館で3月28日から、松山市の映画館で同29日から上映されている。記者は公開後初の土曜となった29日、洲本市の「洲本オリオン」に足を運んだ。
上映は午後1時から。料金は一般1900円。観客は記者を含めて12人だった。
作品は、刃物のまち関市を舞台に刀鍛冶とその家族の物語を描く――という。いざ始まると、音声と俳優の動きのずれが終始気になった。雑音が時折入り、俳優が声を張るシーンでは音割れも生じていた。笛や太鼓のBGMが大きく、俳優のセリフが聞き取れない場面も度々あった。
タイトルになっている関市板取の「名もなき池」(通称・モネの池)は、映画の前半にしか現れなかった。終盤、セリフのないまま刀鍛治の作業がずっと続く場面があった。
映画を見終えた大阪府東大阪市の会社員の50歳代女性は関市出身で、郷里の知人に頼まれて見に来たという。「全体的に話がよく分からなかった。場面転換も不自然に切れていた。お金を払う価値がない」と切り捨て、「関市の人も一生懸命協力したのにかわいそう」と肩を落とした。
同館の男性支配人は「監督とは以前、映画館を舞台にしたドラマの撮影を通じて知り合い、上映を頼まれた。親子愛の話なので多くの人に見てほしい」と話す。4週間ほど上映する予定だという。