※本稿は、楊海英『中国共産党 歴史を書き換える技術』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。
中国において、過去の歴史の意味づけがどのようにコントロールされてきたかを示す典型とも言えるのが、1989年6月に発生した天安門事件と、今に至るまでの事件の取り扱いである。この出来事は、中国現代史における決定的な転換点となった。
民主化を求めて天安門広場に集結した学生たちに対し、中国政府は武力による苛烈な弾圧を加え、その対応は国際社会から厳しい非難を浴びることとなった。中国共産党は公式に死者数を319人と発表したが、実際の犠牲者数がそれをはるかに上回ることは疑いようがなく、イギリス政府の機密文書は、その数が1万人に達する可能性があると報告している。
こうした大規模な流血の惨事は、もはや一国の内部問題にとどまらず、国家権力による暴力的弾圧の象徴として、国際社会の記憶に深く刻み込まれることとなった。事実、この事件は中国政府にとって、共産党体制の正統性を根底から揺るがしかねない深刻な危機であった。
にもかかわらず、政権はその構造的な矛盾や民意の噴出と正面から向き合うことをせず、その矛先を外部へと転嫁する道を選んだ。ここにおいて、ナショナリズムを梃子(てこ)とする新たなイデオロギー戦略が本格的に展開されることとなる。
江沢民政権下では、「愛国主義教育」の体系化が進められ、とりわけ日本が仮想敵国として明確に位置づけられた。「日本は中国を侵略した悪の象徴であり、中国共産党はその悪に打ち勝った英雄である」とするフィクションが、初等教育から高等教育に至るまで一貫して刷り込まれていったのである。
このような教育体制のもと、次代を担う若者たちの歴史認識、国家観、さらには世界観そのものが、党の意図に沿って形成されていったのである。その余波として、日本製品に対する不買運動が各地で相次ぐ。これらは市民による自発的抗議として喧伝されたが、その背後に政府の黙認や誘導があったことは言うまでもない。
日本が長年にわたり提供してきた経済的支援に対する感謝の声もなく、それどころか日本を「小日本」と呼ぶ侮蔑的表現が一般化し、対日蔑視の感情は社会の隅々にまで浸透していった。
こうした状況の中で、日本政府は2008年、福田康夫首相のもと「留学生30万人計画」を打ち出し、アジア諸国からの留学生を大規模に受け入れる方針を掲げた。この政策は、日本の大学における国際化を推進し、少子高齢化による学生不足の解消を図るとともに、「人的交流を通じた相互理解の深化」を理念として掲げたものである。
中国が日本を仮想敵国として位置づけ、その脅威を強調する教育が制度的に徹底されてきたという現実を、当時の日本政府がどこまで理解していたのか、あるいは事実として把握していたとしても、外交的配慮や経済的利益を優先し、あえて看過していた可能性も否定できない。
いずれにせよ、このような構造的問題を十分に精査することなく進められた政策は、あまりに楽観的で無防備であったと言わざるを得ない。
こうした前提のもと、中国共産党の特異な教育体制の中で育った若者たちが、留学生として日本へ続々と渡航するようになる。実際、中国人留学生の多くは、国家主導のナショナリズム教育によって形成された対日観を、無自覚のまま抱えて来日する。
日本側がどれほど友好的に彼らを迎え入れようとも、幼少期から一貫して刷り込まれてきた対日史観が、短期間の留学で解けることなどありえない。「人的交流が相互理解へと結実する」とする発想そのものが、現実を見誤った楽観的な幻想にすぎないのである。
さらに彼らは、日本に学びに来ているにもかかわらず、清朝末期の日本留学の歴史や、中華民国期における日中の軍事交流、さらには中国共産党の創設メンバーの多くが日本留学生であったという史実について、ほとんど何も知らない。
日本に滞在しながら、自国の先人たちがこの地で何を学び、いかにして祖国の近代化や革命運動に貢献したのか。そうした歴史的背景に思いを馳せることもないのである。
現在、日本にはおよそ37万人の外国人留学生が在籍しており、その4割近い12万人余りを中国人留学生が占めている。なかでも最高学府である東京大学では、中国人留学生数が3500人を超え、全留学生の7割近く、学生全体に占める割合も1割を超えているという。
私は、このように特定国籍に偏った構成が、日本社会に対して中長期的に深刻な影響を及ぼすおそれがあると強く懸念している。仮に、彼らが清朝末期や中華民国期、あるいは改革開放初期のような時代に育った世代であれば、こうした危惧はさほど大きなものではなかったかもしれない。
しかし、現在日本に留学している中国人学生の多くは、1990年代以降に生まれ育ち、中国本土で徹底した反日教育を受けてきた、「天安門事件」という言葉すら知らない世代である。
表面的には親日的な態度を見せることもあるが、内面では根深い反日感情を抱く「隠れ反日分子」が多数いると考えるのが自然だろう。こうした人々が一定の割合で日本社会に流入し、やがて定着していくことは、学術界、先端技術、安全保障、そして社会的統合といった諸分野において、無視しがたいリスクを孕んでいる。
たとえば、学術界においてはすでに「中国化」の兆候が現れている。ある歴史学会では、中国人留学生が中国語で発表を行い、その内容は中国共産党の歴史観に基づくものであった。
このような主張が学界に長期的に定着すれば、事実に基づかない歴史解釈、つまりは政治的に改竄された虚構の歴史が、あたかも学問的に正当な見解であるかのように受容されてしまいかねない。
本来、歴史学とは過去の事実を客観的に検証する営みである。その場に党派的なプロパガンダが持ち込まれれば、学問の中立性そのものが揺らぎ、ひいては知的基盤が蝕まれることになるのである。
また、理工系の研究室では、機密性の高い先端技術の情報が中国に持ち出される事例がすでに報告されている。これらの技術が中国の公船や戦闘機、軍艦といった軍事装備に転用されれば、日本の安全保障が脅かされるのは避けられない。
しかも、その技術が向けられる矛先は日本にとどまらず、モンゴル人、ウイグル人、チベット人といった、中国政府による弾圧の対象となっている諸民族にまで及ぶ。これは単なる仮説や懸念ではなく、すでに現実として進行している事態なのである。
加えて、日本国内における奨学金制度の不平等も深刻である。中国人留学生のうち、特に博士課程の理系学生には、年間300万円近い「給付型」の奨学金が支給されることが話題になった。一方、日本人学生に対しては、そのような機会が極めて限定的であり、多くの奨学金は返済義務を伴う「貸与型ローン」にとどまっている。
結果として、多くの若者が中年期まで債務を抱えたまま、手取り20万円前後の給与で社会に出ざるをえず、結婚や住宅購入といった人生設計すら困難な状況に追い込まれている。
このような制度的不均衡が積み重なれば、日本の若年層の活力が削がれ、ひいては少子高齢化という構造的課題への対応がますます難しくなる。
さらに、同じキャンパス内で日本人学生と留学生との間に制度的格差が生じれば、そこから不満と不信が生まれ、学内の秩序や調和が崩れる可能性も否定できない。
中国人留学生の多くは難関大学に進学しており、将来的に帰化あるいは永住を選択し、日本の有力企業や官公庁に就職する者も多い。そうした人物が中国共産党の歴史観や価値体系を内面化したまま社会の中枢に入り込めば、日本の制度や価値観が内側から書き換えられていくことになる。教育制度や歴史認識、言語文化そのものが、中国的価値観に従属していくことにもなるだろう。
高校や予備校でも中国人留学生の増加は著しく、近い将来、「授業を中国語で行ってほしい」といった要望が公然と主張される事態も現実味を帯びてくる。
事実、アメリカのある大学では、中国人留学生が多数を占めた結果、講義を中国語で行うよう求める声が上がったとの報告もある。同様の事態が日本で起きないと考えるほうが無理があるだろう。結局のところ、問題は外国人留学生の存在そのものではない。
問うべきは、どのような思想的背景を持つ者が、いかなる意図をもって日本に滞在し、その結果として日本社会にどのような影響を及ぼしているかである。
この点に関して、アメリカではすでにリスクを現実的な脅威として認識し、留学生の受け入れ政策の見直しが進められている。
トランプ政権下では、ハーバード大学における留学生の受け入れ資格が停止され、ビザの発給停止や奨学金の支給差し止めといった厳格な対応も取られている。
こうした措置について、日本のメディアは通例どおり、トランプ政権を批判する論調を繰り返している。しかし、その背後にある看過できない実態についても理解しておく必要があるだろう。
米国のシンクタンク「民主主義防衛財団(FDD)」の報告によれば、複数の大学や研究機関が、中国共産党系組織から巨額の資金提供を受けているという。ハーバード大学も例外ではなく、同大学化学生物学科のチャールズ・リーバー教授は、中国政府が優秀な海外研究者を組織的に勧誘する「千人計画」に関与し、多額の資金提供を受けていた。これに関連し、虚偽申告や脱税など6件の罪に問われ、2021年には有罪判決を受けている。
また、米下院で中国問題を扱う超党派特別委員会(Select Committee on the Chinese Communist Party)は、アメリカが制裁対象としている中国の準軍事組織「新疆生産建設兵団(XPCC)」とハーバード大学が、米国国防総省の研究資金を用いて共同研究を行っていた事実を指摘している。
あるいは、中国共産党による人材育成プログラムの一環として、ハーバード大学を含む米国内の大学に派遣された研修生が、帰国後に中国国内で要職に就く事例が数多く確認されている。こうした動きは、機密情報や先端技術の流出を招くとともに、「軍民融合」を掲げる中国政府による軍事力強化へつながる深刻なリスクをはらんでいる。
トランプ政権が強硬策に転じたのは、単なる反中感情や偏向的なユダヤ主義によるものだけではない。その背後には、こうした具体的な経緯と懸念が存在していたのである。
思想や学問の自由を守るためには、政治的背景を慎重に見極め、ときに受け入れに制限を加えることが、社会秩序の維持に資する──。そのような現実主義的な判断であったとの側面もあるだろう。
翻って日本を見れば、その姿勢はあまりにも無防備と言わざるを得ない。実際、先述の「千人計画」には、少なくとも40人を超える日本人研究者が関与していたことを、読売新聞などが2021年に報じている。
留学生の受け入れそのものが問題なのではない。問題は、彼らの思想的背景や教育環境に目を向けることなく、「友好」や「相互理解」といった空疎な美辞に酔いながら、無制限に受け入れを続けている現状にある。その姿勢は、政治・社会・学問・文化のあらゆる領域において、日本の根幹を揺るがす深刻な時代を招くだろう。
中国からの留学生の背後には、「日本に学ぶ」から「日本を打倒する」、さらには「日本を塗り替える」へと至る、100年を超える思想的連続性が存在する。この歴史的文脈を冷静に見極めたうえで、日本は今こそ留学生政策を根本から問い直すべきであろう。
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(静岡大学教授/文化人類学者 楊 海英)
山上被告母らの尋問「必要ない」 検察側が主張、安倍氏銃撃初公判
2022年の安倍晋三元首相銃撃事件で殺人罪などに問われた山上徹也被告(44)の公判を前に、旧統一教会の影響や家庭環境を審理するため、弁護側が母親や宗教学者ら5人の証人尋問を求めたのに対し、検察側が「必要性がない」などと反対したことが30日、関係者への取材で分かった。
母親は教団に多額の献金をして破産し、被告は教団への恨みから安倍氏を狙ったと供述したとされる。10月28日に奈良地裁で初公判を迎える裁判員裁判では情状面が争点の一つになる見通し。
関係者によると、弁護側は教団の教義や活動内容を審理することで「被告の成育環境や動機を理解できる」と主張。母親の数時間にわたる尋問や、被告と面会を重ねている宗教学者らの出廷、「被告の育った状況を多角的な観点から理解するため」として、妹の証言も必要だと訴えた。
検察側は、成育歴を過度に考慮すべきではなく、母親の尋問は「簡潔な証言で十分」として時間削減を求めた。妹は動機と関連がなく、審理で教義に踏み込むのは不適切だとした上で、宗教学者らの尋問は公判の趣旨から外れると主張した。
【独自】入所者に「死ね」、暴力の疑いも 千葉の介護施設、虐待通報せず
千葉県成田市の介護医療院で、職員2人が入所者に「死ね」などと暴言を吐く虐待をしていたことが30日、共同通信が入手した音声データや複数の元職員の証言で分かった。暴力を振るった疑いもある。施設は虐待の疑いを把握していたが、法律で義務付けられた市町村への通報をしていなかった。内部告発を受けた成田市が事実関係を調査している。
この介護医療院は「千年希望の杜 成田」。社会福祉法人「恵洋会」(山本宗大理事長)が昨年10月に開設した。恵洋会は取材に虐待を認め、通報しなかったのは「(把握した段階では)虐待との判断に至る内容ではなかった」からとしている。
虐待は今年7月に発生。音声データには、認知症のある女性入所者に男性職員2人が「黙れ」「死ね」などと暴言を吐き、体をたたくような音と、女性の悲鳴が残っていた。介護記録によると、その後、女性の額ははれ、顔に複数のあざができていた。
同じ音声によると、別の男性入所者にも暴言や暴力が加えられていた疑いがある。法人側は暴言を認め「職員2人を懲戒処分にし、入所者と家族には謝罪した」とする一方、暴力行為については認めていない。
「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は浸透するのか 課題は理解、カムチャツカ地震1カ月
ロシア・カムチャツカ半島沖の千島海溝で発生したマグニチュード(M)8・8の地震発生から30日で1カ月となった。千島海溝を震源とする巨大地震は北海道・東北地方を中心に大きな被害が想定されており、気象庁は南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」に相当する「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を運用するが、浸透していないのが現状。昨夏に出された臨時情報を巡っては混乱が生じた経緯があり、注意情報の適切な理解が課題となる。
注意情報は、北海道沖の同海溝および三陸沖付近の日本海溝北部沿いで巨大地震の発生を想定し、令和4年12月に導入された。千島海溝沿いでは、北海道の沿岸で行われた津波堆積物の調査により、約340~380年間隔でM8・8程度以上の地震が起きていたことが判明。最新事例は17世紀で、切迫した状況とされる。
39%が「知らない」
このため地域防災上、注意情報は重要な役割を担う。一方、昨年12月に関西大などが実施した北海道内の20~60代の男女計約1800人を対象とする調査では、39%が注意情報を「知らない」と回答。具体的な内容を知らない人も合わせると7割を超えた。昨年8月には初の臨時情報が発表されたが、その前に実施した調査とほぼ同じ結果という。同大の林能成教授(地震防災)は「(南海トラフから)離れているため、(注意情報への)関心が高まらなかったようだ」と指摘する。
注意情報は地震予知ではなく、M8級以上の巨大地震が後発する可能性が平時よりも相対的に高まったとして、地域住民らに備えの再確認を促すものだ。防災対応の呼びかけは、先発地震の発生から7日間で終了する。
基準はM7・0
発表される条件は、想定震源域でM7・0以上の地震が起きた場合▽想定震源域の外側を震源としたM7・0以上の地震が起き、想定震源域に影響を与えると判断された場合-のいずれかだ。
M7・0を基準とする背景には過去の事例がある。政府によると、両海溝沿いでは平成29年までの113年間に4%程度の確率で、M7級以上の先発地震が発生後7日以内にM8級以上の後発地震が起きている。日本海溝沿いで23年に起きた東日本大震災(M9・0)は、震源付近でM7・3の地震が起きた2日後に発生した。
昨夏に臨時情報が初めて発表された際には、各地で混乱が生じた。林教授は注意情報について、「南海トラフ地震と比べて取り上げられる機会が少なく、関心は低くなる。あらかじめ詳しく説明しておかないと、昨年夏と同じような状況となりかねない」と警鐘を鳴らしている。(小野晋史)
【速報】世界遺産・京都の東寺境内にある毘沙門堂から賽銭箱が箱ごと盗まれたか 防犯カメラに持ち去られる様子も 京都府警が捜査
京都市南区の東寺で30日、賽銭箱がなくなっているのを僧侶が見つけ、警察に届け出ました。
警察が窃盗事件として調べています。
30日午後2時ごろ、京都市南区の東寺の僧侶の男性から「賽銭箱が箱ごとなくなった」と交番に申告がありました。
警察によりますと、なくなったのは境内の毘沙門堂の前に置かれていた賽銭箱で、僧侶が最後に確認したのは24日だったということです。
僧侶が30日の昼ごろに確認した際にはすでに賽銭箱がなくなっていたといいます。
賽銭箱は横46cm、高さ31cmの木製で、当時、現金がいくら入っていたかはわかっていませんが、賽銭箱自体が、20万円に相当する被害になるということです。
警察によりますと、境内の防犯カメラに賽銭箱が箱ごと持ち去られる様子が映っていて、警察は窃盗事件として捜査を進めています。
カムチャツカ地震で津波避難、対象の1割…6道県で8万人超
7月30日にロシア・カムチャツカ半島付近で起きた地震の津波に伴い、避難指示が出された北海道~茨城県沿岸の自治体で、避難所・場所に避難した人は計8万人超に上ることが読売新聞の調べでわかった。避難指示の対象住民数の1割程度で、近くの高台などに向かった人も一定程度いたが全体的に避難者は少なかったとみられる。
地震は午前8時25分頃に発生。気象庁は当初、太平洋沿岸などに津波注意報を出したが、同9時40分に北海道~和歌山県の注意報を津波警報に切り替えた。総務省消防庁によると、北海道~沖縄の21都道県229市町村の計約201万人に避難指示が出された。
調査は今月、比較的高い津波が観測され、第1波の到達時間も早かった北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城の6道県90市町村を対象に実施。「避難指示対象住民数」と「自治体が避難所・場所で把握した人数」を尋ね、全自治体から回答を得た。
その結果、自治体指定の避難所などに避難したのは計8万1634人に上った。避難指示の対象住民数を把握している77市町村に限ると、避難者数の比率は9・3%だった。道県別では、北海道11・8%、青森7・1%、岩手13・2%、宮城8・5%、福島4・6%、茨城1・5%。
市町村別では仙台市の111・9%が最も高く、北海道釧路市97・1%、むかわ町96・2%と続いた。仙台市や釧路市では、観光客や在勤者も一定程度おり、避難者が膨れ上がったという。一方、茨城県鉾田市、日立市は1%未満で「念のため避難指示を広範囲に出したため、対象住民数が多くなった」としている。
いずれの自治体でも、指定避難所以外の場所(高台、公園、商業施設、親戚宅など)に移動した住民も少なくなかったとみられる。
北海道内の避難状況を分析した、日本赤十字北海道看護大の根本昌宏教授(寒冷地防災学)は「住民の3割は避難行動を取っていたとみられ、避難所以外に分散した傾向がうかがえた。自治体にとっては、配慮が必要な住民の避難先をどう把握し、支援するかが課題となる」としている。
献血39人分、不適切管理で使用不能に…搬送業者が車の駐車場所探し最大7時間遅れで届ける
東京都赤十字血液センターが今月16日に献血で集めた全39人分の血液が適切に管理されず、使用不能になっていたことがわかった。血液を搬送する業者側の不手際で、管理温度が不適切な状態が長時間続いたことが原因という。人的要因で献血血液が使えなくなるのは異例で、日本赤十字社は厚生労働省に今回の問題を報告した。
関係者や同センターによると、東京都大田区のJR大森駅前の献血バス内で採取された血液が16日午後、日赤の施設に搬送するため業者の担当者に渡された。だが、この担当者が搬送車両の駐車場所を失念したため、血液を持ちながら長時間にわたって車を探すことになり、通常は1~2時間程度で施設に届けられるところ、最大で約7時間の遅延が生じた。
この血液は検査を経て血液製剤として使われる予定だったが、同センターは患者の安全面を考慮して「品質が保証できない」と判断し、使用しないことを決めた。協力した39人には電話での謝罪を進めており、連絡がつかない人にはおわび文書を郵送するという。
同センターは読売新聞の取材に対し、搬送業者の不手際とともにセンター側の対応に不備があったこともあり、血液の搬送に遅れが生じたことを認めた。その上で、「善意でご協力いただいた貴重な血液を血液製剤として使用しない結果となり、深くおわび申し上げる。再発防止策を講じ、品質・安全性の高い献血血液の安定確保に努める」などとしている。
同センターでは今年5月、保管中の血液製剤約1万3700本が冷凍庫の電源が落ちたため使えなくなるトラブルも発生。これを受けて日赤は、各都道府県の血液センターに血液製剤の管理を徹底するよう指示していた。
ストーカーへの警告に被害申告不要、規制法改正へ…対応を迅速化し事態のエスカレート防ぐ
ストーカー被害の深刻化を受け、警察庁は、加害者への警告に被害者からの申し出を必要とする現行のストーカー規制法を改正し、警察の職権で警告できる制度を導入する検討に入った。違法行為を速やかに抑止するのが狙いで、居場所を特定する「紛失防止タグ」の悪用を規制する対策と合わせ、重大な被害の未然防止に万全を期す構えだ。
同法では、つきまとい行為などをやめるよう警察署長らが警告書を出す場合、被害者から申し出を受けることとしている。だが、被害者は報復を恐れたり、危害を加えられるリスクに気づかなかったりして、警察の積極的な介入を望まないケースも少なくない。
川崎市の住宅で今年4月、岡崎彩咲陽(あさひ)さん(当時20歳)の遺体が見つかった事件では、岡崎さんが元交際相手の無職白井秀征(ひでゆき)被告(28)(殺人罪などで起訴)からのストーカー被害を警察に訴えていたが、神奈川県警が同法に基づく警告を出す事態には至っていなかった。
事件を受け、警察庁は5月、被害者の安全確保を最優先に対処するよう全国の警察に改めて通達。再発防止策の検討を進めている。
ストーカー事案の相談は高水準で推移しており、全国の警察の受理件数は昨年、約2万件に上った。だが、警告件数は減少しており、昨年は前年比55件減の1479件にとどまった。
被害者への接近などを禁じる対策としては、2016年12月の同法改正で警告を経ずに「禁止命令」が出せるようになった。ただ、禁止命令は警告よりも重い「行政処分」で、十分な証拠収集などに時間を要する側面があるとされる。
このため警察庁は、重大事案に発展する恐れがあると警察が判断した場合、迅速に警告を出せるようにし、事態のエスカレートを防ぐ効果を高めたい考えだ。
一方、ストーカー被害を巡っては、無線で周囲のスマートフォンに信号を送り、位置を知らせる紛失防止タグの悪用が広がっている。このため、同庁はタグを相手の持ち物に仕込むなど、同意を得ずに位置情報を特定する行為も規制対象にする方針だ。
神戸刺殺 容疑者、過去2度つきまとい 全事件オートロックすり抜け
神戸市のマンションで住人の会社員、片山恵さん(24)が刺殺された事件で、殺人容疑で逮捕された谷本将志(まさし)容疑者(35)=東京都新宿区=が、5年前にも別の女性につきまといをしていたことが捜査関係者などへの取材で判明した。3年前には同種事件の判決で、再犯の恐れを危惧されていた。今回を含む全ての事件で、後をつけてオートロック式玄関をすり抜けるなど、狙った女性に執着していた。容疑者の逮捕から29日で1週間。片山さんの命が奪われる事態は、防げなかったのか――。
事件は20日午後7時20分ごろに発生。容疑者は神戸市中央区のマンションのエレベーター内で、片山さんの胸部などを複数回ナイフで刺して殺害したとされる。会社から帰宅した片山さんが開けたオートロック式玄関が閉まらないうちに容疑者も侵入。その後、一緒にエレベーターに乗り込んで事件に及んだとみられる。片山さんについて「全く知らない人だった」と供述している。
裁判資料などによると容疑者は2020年12月、神戸市で片山さんとは別の女性につきまとったとして、ストーカー規制法違反の罪などで神戸簡裁から罰金の略式命令を受けた。女性に続いてオートロック式のマンション玄関を通り、その後一緒にエレベーターに乗り込んだとされる。
さらに22年には神戸市内のマンションで別の住人女性の首を絞めたなどとして傷害罪などに問われ、同年9月に神戸地裁で執行猶予付き判決を受けた。
確定判決によると、容疑者は路上で見かけた女性に一方的に好意を抱き、複数回にわたって後をつけてオートロック式玄関を突破していた。
容疑者は当時、首を絞めた翌日に謝罪で女性宅を訪れようとしていた。判決はこうした経緯に触れ、「思考のゆがみは顕著」と指摘し、再犯の恐れを強く懸念していた。一方、女性の負傷程度や容疑者の反省態度を考慮して執行猶予を付けた。【柴山雄太、斉藤朋恵、前田優菜】
ミャクミャク「高く売れる」、万博会場内ストアでグッズ万引き相次ぐ…フリマアプリで定価の1・5倍も
大阪・関西万博会場のオフィシャルストアで、公式キャラクター「ミャクミャク」関連グッズの万引きが相次いでいる。大阪府警はこれまでに2グループの若者計8人を窃盗容疑で逮捕したが、いずれも売却目的とみられている。人気の高さから、フリーマーケットアプリでグッズの売買が活発に行われている現状が背景にある。(北島美穂、上田裕子)
ぬいぐるみにカチューシャなど、売り場の商品を次々に手提げカバンにすべり込ませる。メンバーの一部は、カバンが盗品でいっぱいになると店舗近くのロッカーへ移し、再び盗みを続ける――。
オフィシャルストアで6月、ミャクミャク関連グッズを盗んだとして、窃盗容疑で逮捕された都内在住の男子大学生ら6人が、府警の調べに供述した手口だ。
6人は鉄道が共通の趣味で、SNSなどを通じて知り合ったという。万博会場で万引きすることを決め、東京駅から新幹線などに無賃乗車して関西へ移動。盗んだ品は100点を超え、被害額は計約50万円に上るとみられる。6人は「ネットで売る目的だった」と容疑を認めている。
7月には、これとは別のグループの16歳の少年2人を、バッグを万引きしたとして窃盗容疑で逮捕した。このグループも売却が目的とみられ、府警は、他に関与が疑われる2人についても捜査している。
事件の背景には、ミャクミャクグッズの人気の高さがある。
日本国際博覧会協会(万博協会)によると、会場内のオフィシャルショップは4月の開幕時には8店舗だったが、多くの来場者が詰めかけ、一部で店外にまで長蛇の列ができる状況をふまえ、19店舗に増やした。
フリマアプリ大手「メルカリ」には、キーケースやぬいぐるみ、ヘアバンドやピンバッジなど様々な商品が、「現地でもすぐ売り切れる入手困難商品」「オフィシャルストアでのみ限定販売」といったうたい文句とともに出品されている。特に人気を集めている通称「黒ミャクミャク」のぬいぐるみは、25日現在、定価の1・5倍に相当する5000円前後で売り出されている。
大学生ら6人のグループの一部が盗んだ品には、会場限定販売の黒ミャクミャクのぬいぐるみや、人気ブランドとミャクミャクのコラボ商品も含まれていた。複数のメンバーが「高額で売れる限定グッズを狙った」と供述しているという。
万博会場での万引きでは、現行犯逮捕でない場合、どの店舗から盗まれた品かの裏付けに地道な捜査を必要とする。店舗数が多い上に、扱われる商品が膨大で、ラインアップも共通しているからだ。ある捜査員は「大規模イベントの特性でもあり、やむを得ない」とし、「防犯カメラを精査するなどし、突き止める」と話す。
府警は被害を未然に防ぐ取り組みにも力を入れており、各店舗の管理者を集めた防犯指導を実施。不審者の挙動の特徴などを伝えている。