維新・吉村洋文代表、自公への対決姿勢鮮明「買収じゃないですか」2万円給付を痛烈批判…参院選第一声

第27回参院選(20日投開票)が3日、公示され、日本維新の会・吉村洋文代表=大阪府知事=が大阪・ミナミの「なんば広場」で大阪選挙区の公認候補2人とともに第一声を挙げた。
吉村代表はまず、大阪・関西万博、IR、うめきたの整備、市営地下鉄民営化など、大阪維新の会からスタートした維新15年の改革の成果を強調。続いて大きく2つの公約を掲げた。
1つめは、社会保険料を下げる改革。「所得が350万円の人、所得税は7万円ですけれど、天引きされる社会保険料はなんと50万円。同じ金額を会社、事業主も負担しています。(社会保険料減は)人口減少高齢化社会の中で絶対に必要な本質的な問題」と恒久的な“手取りアップ”と事業主の負担減を訴えた。
2つめは、大阪・関西を副首都として、首都圏をバックアップする経済圏を構築すること。「世界を見渡して、一極集中の国はほとんどない。米国もワシントンに全てが集まっているわけではない。カリフォルニア州は(2024年に)1つの州で日本のGDPを超えた。若い世代が頑張ったら夢をかなえるエリアをつくっていく」と大阪・関西が日本経済をけん引する仕組みをつくり出すとした。
さらに自公政権への対決姿勢を鮮明にした。「選挙前だからって『2万円の現金配ります。皆さんよろしく』って買収じゃないですか!」「『目の前でバラマキます』って違うやろ」と自公の現金2万円を給付するという公約を一時しのぎだと批判した。また、訪日観光客の消費税免除廃止も訴えた。
演説を終えると「吉村さ~ん!」という聴衆の声援に手を振って応えた。「万博また行くでぇ」と声を上げた男性にはサムアップで応じていた。

トカラ列島近海の地震、累計1000回超え…今朝も鹿児島県十島村の悪石島で震度4

鹿児島県・トカラ列島近海を震源とする地震は、3日も相次いだ。気象庁によると、震度1以上を観測する地震が正午までに29回起き、6月21日以降の累計は1001回に達した。
3日午前6時51分頃には、同県十島村の悪石島で震度4を記録した。同庁によると、震源の深さは約20キロ、地震の規模を示すマグニチュードは4・4と推定される。
一連の地震では、今月2日までに震度5弱を計3回観測するなど、約2週間にわたって活発化している。揺れの強かった地域では落石や崖崩れの危険もあるといい、同庁は震度5強程度の揺れを伴う地震に備えるよう呼びかけている。

それでも自公与党は減税しないのか…24年度の税収75兆円また過去最高更新、物価高反映し5年総額4.2兆円の上振れ

明らかに庶民から取り過ぎだ。財務省は2日、2024年度の国の一般会計税収が75兆2320億円になると発表した。5年連続で過去最高を更新。昨年11月の補正予算編成時の見込み額から約1.8兆円、年度頭の当初予算の見込み額からは約5.6兆円も上振れした。
法人税収は企業業績の好調を受け、前年度比2兆円増の約18兆円。大手メディアはバブル期の1990年度(約18.4兆円)以来の水準と大ハシャギだが、今や国の税収の根幹を成すのは庶民が買い物のたびに負担する消費税なのである。
24年度の消費税収は前年度比1.9兆円増の約25兆円。法人税収とは約7兆円もの開きがある。それこそバブル期の90年度に消費税収(税率3%)は4.6兆円に過ぎなかったが、増税に次ぐ増税で実に5倍以上にも跳ね上がっているのだ。しかも21年後半から物価高騰が始まって以来、消費税収はうなぎ上りである。消費税率は19年10月に10%へアップ。税収は翌20年度の約21兆円からグングン上昇し、5年間で4兆円も増加している。
「これだけ値上げラッシュが相次げば、消費税収が伸びるのは当然です。増えるいっぽうの消費税収には、物価高に苦しむ庶民の暮らしが反映されています。法人税にはさまざまな租税特別措置が用意され、大企業の税負担を優遇している。過去に年間売り上げ上位20社の法人3税の負担率を調べたところ、優遇措置により実効税率30%の半分程度しか納めていなかった。なぜ自公政権は大企業を助けるのに、庶民生活を苦しめる消費税を減税しないのか。巨額の献金を受け取る大企業しか優遇されない税制としか思えません」(立正大法制研究所特別研究員・浦野広明氏=税法)
20年度から24年度までの間に、消費税収は一貫して見込み額よりも上振れし続けている。この間の上振れ分の総額は計約4.2兆円に達する。
「その上、24年度に計上しながら全く使わなかった予算は約4.3兆円にも上りました。これでは、減税しない理屈は立ちません。財源が問題なら法人税の累進税率を強化したり、所得税の最高税率を引き上げればいいのです」(浦野広明氏)
減税できない自公与党は庶民の敵。ますます参院選で窮地に立つのは間違いない。
◇ ◇ ◇
「公明新聞」が異例すぎる選挙分析…なんと公明党候補“全員落選”危機だとか。関連記事【もっと読む】で詳しく報じている。

世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

今月3日に公示、20日に投開票される参院選を前に古希を迎える有名人らの出馬表明が続いている。
ミュージシャンの世良公則氏(69)は1日、大阪選挙区に無所属で立候補するとして会見を行った。ライブで一番訪れる大阪を拠点に「オーバーツーリズム」問題などに取り組みたいとし、さらに「次の世代によりよい日本を残すために、この国を動かしていく」と語った。
世良氏はデビューから48年。「あんたのバラード」や「燃えろいい女」などのヒット曲で知られるが、「近年はⅩでも政治的意見を発信していましたから、関心は高かったのでしょう。過去に自民党の高市早苗氏がツーショット写真をあげていたり、投稿内容から自国への想いの強さもうかがえますから、無所属には驚きつつ、当選した後の動向も話題になっています」(音楽業界関係者)という。
同じく、芸能人ではタレントのラサール石井氏(69)が先月30日、社民党から比例代表で立候補することを会見で表明。「黙って見ているのをやめた」と話している。またテレビ番組のコメンテーターや最近はYouTubeでも社会問題を積極的も発信する弁護士の北村晴男氏(69)も、日本保守党から比例代表で立候補することを明らかに。
■「若い世代のため」にしては……?
揃って70歳を前に出馬表明。芸能界や弁護士として、知名度も立場も確立してきた。もっとも、3者ともこれまで社会問題を発信してきた顔ぶれで、政治家転身は不思議ではない。だが、順番からいけば「若い世代のため」に動くのは40~50代の役目だろう。近年は70~80代の議員がゴロゴロいて、高齢化が問題に。定年制さえ求める声もあがるなか、古希で立ち上がるタレントが続くのは違和感もある。
「本人たちは今さら、お金や名誉のためではないでしょう。3者とも歌手やタレント、マルチに活動する弁護士と表舞台に出続けていたタイプで、芸能界で居場所を失ったから『政治家』を志したケースとも異なる。これは政党や担ぎ出す周囲の都合でしょう。確実に投票に行く高齢者層の不満の受け皿になる世代で、後年を見据えても元気に発言できるのが70歳前後。タレント出身の若い候補に比べて、長年大きなスキャンダルがなく、芸能界を生き抜いてきたのもプラスに働きます。もちろん、高齢者代表として持ち上げられるのは、本人たちにとっても悪い話ではないですからね」(政治ジャーナリスト)
人生100年時代……か。
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タレント出身の女性たちは目も当てられないが…?●【こちらも読む】山尾志桜里氏は出馬会見翌日に公認取り消し…今井絵理子、生稲晃子…“芸能界出身”女性政治家の醜聞と凄まじい嫌われぶり…に詳しい。

病院や施設の面会制限、まだ必要? ペットはOKなのに孫はNG、コロナ5類から2年の現在地

新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」になってから5月で2年がたったが、病院や介護施設の多くでまだ面会制限が続けられている。「親の死に目に会えなかった」「ペットは面会OKなのに、孫はダメと言われた」。愛する家族に最後に会えなかった人たちは、納得できない思いや心の傷を抱え続けている。「『おかしい』と声を上げよう」。医師や学者たちがそう呼びかけている。(共同通信=市川亨)
▽感染リスクは同じなのに「一時外出したらOK」
妻(左)の母親が亡くなった病院の面会制限について話す感染症内科医の須賀祐介さん(仮名)=4月
「まだこんな厳しい面会制限をしているのかと、びっくりしました」 首都圏の医師、須賀祐介さん(36)=仮名=は自身の体験をそう話す。 須賀さんは感染症内科医。コロナ禍の際は東京都内の総合病院で対応に当たった経験がある。「内科医の端くれ」と名乗り、SNSで医療情報や自身の意見を積極的に発信している。
須賀さんは、妻の母親が今年1月からがんで秋田県内の病院に入院。4月中旬に亡くなったが、面会は当初「登録した家族2人だけ」と言われ、実の娘である妻も会えなかった。 義母は3月に緩和ケア病棟に移り、面会制限が緩和されたため、自分たちの幼い子どもを連れて秋田へ。「これが最後かもしれないので、孫に会わせてやりたい」と病院にかけ合ったが、「子どもは感染リスクが高いのでダメ。ルールはルール」と許可されなかった。 ところが、粘っていると「一時外出したら、誰とでも会っていい」と言われ、急きょ介護タクシーを手配して義母の実家へ。孫や友人とも面会がかなった。
▽厚労省は明確な規定を設けていない
厚生労働省が入る合同庁舎=5月、東京都千代田区
ただ、須賀さんは釈然としない。「『感染リスクがある』と言うのなら、病院の中と外どちらで会おうが、同じだ。意味が分からない」 しかもペットの面会は可能で「犬や猫が会えるのに、孫が会えないというのは何なのか」と首をひねる。 「現場にしてみると『面会はない方が楽』という面もあるのだと思う。でも、療養中の高齢者にとって、子どもや孫に会えるかどうかは生活の質に関わる」。そう指摘する。
そもそも、面会について国で決まりなどは定めていないのか。2023年5月にコロナが5類になった後の同年10月、厚生労働省は医療機関向けに次のような見解を示している。 「面会の重要性と感染対策の両方に留意し、患者及び面会者の交流の機会を可能な範囲で確保するよう、各医療機関で検討をお願いします」 面会を促してはいるものの、要するに「具体的なことはそれぞれで決めてください」ということだ。
▽子どもの年齢は線引きがバラバラ
面会制限について知らせる病院のホームページ=6月9日
医師らでつくる「コロナ後の医療・福祉・社会を考える会」が昨年秋、全国の大学病院と赤十字病院の状況を調べたところ、ほとんどが「面会は15分まで」「2人まで」などと何らかの制限を設定。「面会禁止」の例もまだあった。 今年5月1日の状況を再調査すると、ある程度は緩和されていたが、それでもまだ数カ所、面会禁止が残っていた。子どもに関しては依然「面会不可」の病院が多い。ただ、その対象は「小学生以下」「中学生以下」などとバラバラだ。
考える会の共同代表で精神科医の高木俊介さんはこう指摘する。「年齢の線引きが統一されていないことが、いかに科学的根拠がないかを表している。病院が恣意的に決めているのが実情だ」
▽医療のルールが社会の道徳になっている
面会制限についてのシンポジウムで話す「コロナ後の医療・福祉・社会を考える会」の共同代表で医師の高木俊介さん=5月24日
考える会は5月下旬、面会制限について考えるシンポジウムを京都市で開いた。冒頭の須賀さんも登壇し、「面会制限が厳しいほど、患者のその後の状態が悪化することが、これまでの研究で示唆されている」と話した。 海外の状況も発表。欧米の主要な病院では人数制限はあるものの、時間や子どもについては制限していないことを報告した。「患者にとって重要だとして、むしろ面会を勧めている」と、日本の対策が過剰であることを訴えた。
「コロナ後の医療・福祉・社会を考える会」共同代表で医師の岩井一也さん
考える会のもう一人の共同代表で医師の岩井一也さんは、自身が感染管理室長を務める静岡市立静岡病院の対応を紹介。コロナ禍の時から、ごく一時期を除いて面会制限はしていなかったという。マスク着用も求めていないが、他の病院と比べて感染状況に差はないと説明した。 岩井さんは指摘する。「入院中の患者が大切な人と面会するのは重要な権利だ。ただ、患者や家族は『お世話になっている』という気持ちがあり、言いにくい」 制限は徐々に緩和されてはいるが、「病院側の裁量による緩和だと、感染状況などによってまた厳しい形に戻ってしまう恐れがある。国民が声を上げるべきだ」と話している。
シンポに招かれて講演した人類学者の磯野真穂さんは、こう話した。 「コロナ禍でマスクの装着が道徳心の象徴になったように、医療のルールが社会の道徳になってしまった。その結果、『医師や病院が決めたルールは、根拠が不明確でも従うべきだ』という考え方が知らず知らずのうちに浸透している。面会制限は社会の慣習行動になりかけている」 その上で問いかけた。「身体を伴う出会いは私たちの基本的な人権です。終末期だけ会わせればいい、という話ではない。そういう文化を未来に残したいですか」
▽取材後記
私はコロナ禍真っ最中の時から厳しい面会制限に違和感があった。対面での面会を貫く老人ホームの話を記事にするなど、疑問を投げかけてきた。短時間の面会にそれほど感染リスクがあるだろうか。そもそも、感染者を責める風潮もおかしいと思っていた。 実は私も今年2月、冒頭の須賀さんと同じような体験をした。妻の母が老人保健施設で亡くなったのだが、最期の瞬間はおろか約4カ月間、一人娘である妻も私たちの子どもも会わせてもらえなかった。 最期も面会不可だった理由は義母が発熱していたから。「妻たちが」ではない。須賀さんは自身の経験について「意味が分からない」と言ったが、私もやはり意味が分からなかった。

建設工事中に2.8メートル転落 70歳男性が意識不明 救護の72歳男性も土砂に巻き込まれけが 沖縄・南風原町

2日午前9時45分ごろ、沖縄県南風原町本部の建設工事現場で作業していた同町の男性(70)が高さ約2.8メートルの場所から転落してけがを負い、意識不明の状態で病院に搬送された。基礎工事で掘った穴に落ちたとみられる。
また、男性を救護しようとした同町の男性(72)が頭上から崩落した土砂に巻き込まれて負傷した。与那原署が事故の原因や当時の安全対策を調査している。

脱走後も怯える日々…「電話をかけるだけで1日50万円」に騙され”闇バイト”に手を染めた50代の証言

日本から遠く離れたミャンマーにある特殊詐欺の拠点から、日本にうその電話をかけて現金をだまし取ったとして2025年5月、名古屋市の高校生の少年(16)が詐欺容疑で逮捕されました。
少年はインターネットで知り合った人から「海外で特技を生かせる仕事がある」と誘われて渡航、詐欺の片棒を担がされていました。いわゆる「闇バイト」に安易に応じたがための暗転です。
闇バイトとは、SNSやインターネット掲示板などで「楽なお仕事で高額報酬」と好条件で働き手を募り、応じると特殊詐欺や強盗などの犯罪の使い走りをさせられるアルバイトのことです。
私は特殊詐欺の取材を長く続けています。関与した当事者多数からも話を聞いてきました。
高校生と同じように儲け話にほいほい乗って海外に渡り、だまし電話をかける愚か者は以前からいました。元暴力団組員ら犯罪にさほど抵抗を感じない人たちが多かったのですが、SNSの爆発的な普及で最近は詐欺に加担する層が広がり、この高校生のように子どもが加害者になるケースが増えています。
警察庁によると、全国の警察は2024年に2274人を特殊詐欺への関与容疑で摘発しました。このうち少年は416人で、全体の18.3%を占めます。暴力団組員(準構成員含む)の436人に迫る勢いです。
捜査関係者によると、少年が闇バイトに応募し、犯罪に加担するまでの流れには基本的なパターンがあるようです。
裏社会に通じたワルの先達は、自らの経験を踏まえて「未来ある少年少女が闇バイトに手を出すと確実に人生が終わる」と口を揃えます。
その証言に耳を傾けます。
東京で出会った男性は複数の暴力団を渡り歩いていました。組織内で幹部にのし上がる気はさらさらなく、「○○組」という看板があれば金儲けに有利と思い込んで所属する組織を転々としていたのです。
上昇志向の強い「同僚」は、覚醒剤や大麻などの違法薬物をせっせと売ったり、賭博開帳に励んだりして金を集め、それを上部に納めています。「上納金」です。
薬物や賭博は暴力団の伝統的な資金集めで、警察に目を付けられやすく摘発されるリスクが高い。薬物の仕入れにはそれなりの元手がかかる。
だから男性はこうした暴力団本来の活動に力を入れず、債券回収代行やみかじめ料(飲食業者などに「トラブル発生の折には解決任せろ」と言って定期的に数万円を支払わせる用心棒代)集めを細々と続けていました。
こんな日々を送っていたら組の中で居場所がなくなり、男性は組を抜けました。年齢は50歳代、定職に就いた経験はなくまっとうに働くつもりもない。でもカネはほしい。
ある日、知り合いの組員から「怠け者のおまえにぴったりの仕事がある」と連絡がありました。
冷暖房完備の中国のマンションから電話をかけるだけで、日に50万円を稼げる。3食付きで渡航費もただとの条件です。迷わず話に乗って中国へ渡りました。
南部の都市で待ち受ける案内役の中国人に連れて行かれたのは高層マンションの一室でした。6畳ほどの部屋がいくつもあり、どの部屋にも電話が10台以上あります。
男性と同じように勧誘されてやってきた日本人が数十人いました。「どう見ても未成年の若者もいた」と男性は明かします。
日本語を上手に操る中国人から名簿とマニュアルを渡されました。名簿は日本に住む高齢者リストです。「情報屋」と呼ばれる人たちが調達し、犯罪組織に売りさばいています。氏名、住所、年齢、家族構成が事細かく書かれていて末尾に電話番号が載っています。
マニュアルはドラマの台本のようでした。文言の上に「警察官」や「弁護士」、「銀行員」などの役名が記され、それぞれ台詞がありました。
ここでの男性の仕事は、これらを使って日本にひたすら電話をかけ、お年寄りからお金をだまし取ることでした。「特殊詐欺」です。
「自分の親と近い年齢の人をだますのはいやだな」と一瞬思ったそうですが、監視役の中国人からせっつかれて日に50件以上電話をかけました。「あなたの口座が犯罪に使われている。このままではあなたが逮捕される。そうならないための方法を教えます」とかなんとか出まかせをしゃべっていると、相手は術中にはまります。
だましたお年寄りの名前を監視役に伝えると監視役はどこかに連絡、日本での詐取金受け取りの段取りを整えていました。中国と日本の犯罪組織がタッグを組んでいると知りました。
待遇は事前に示された条件とは大違いで、ひどかったようです。
食事は拠点近くの汚い食堂限定で、「中身が何だかわからないモノを薄汚れた鍋で調理していて、ろくに食べられなかった」と言います。
行動は常に監視され、外出は部屋の鍵を持つ中国人の許可を得なければならない。
夜は6畳ほどの部屋で数人が雑魚寝していました。詐欺の成功回数が減ると、指示役に脅される。男性は数日で嫌気がさし、脱走しました。
伝手を頼って何とか帰国したものの「報復を受けるかも」と怯えています。旅券や運転免許証のコピーは犯行グループが押さえていて、住所や電話番号も知られているからです。
捜査関係者によると、中国当局はこうした詐欺拠点について当初は摘発に消極的だったようです。ところが中国人がだまされる「電信詐騙」事件が続発したため取り締まりを強化したそうです。
そうなると詐欺組織はさっさと中国から撤退し、当局による取り締まりの緩い地域に拠点を求めます。最近よく報じられるフィリピンやタイ、ミャンマーなどの拠点がそれです。
やはり東京で会った男性です。元暴力団組員ですが証言1の男性と同様、所属していた組織への忠誠心など皆無です。カネになるなら敵対していた組織の組員や海外の犯罪組織メンバーとも結託、違法薬物売買やオンラインカジノなどを手広くやっています。
中でもひとりだませば数百万円以上の大金が手に入る特殊詐欺に傾倒しています。
「特殊詐欺はピラミッド型の組織でやる。頂点にはヤクザや海外の犯罪組織がどんと居座っていて下に指示を出す。電話をかける『架け子』や詐取金回収役の『受け子』はピラミッドの末端で、ネットなどで釣り上げる」と話します。
闇バイト募集に応じて採用された末端役は組織のことも上層部の名前も知りません。だから架け子らが逮捕されても上層部に捜査が及ぶことがありません。
「そいつらは使い捨て。逮捕されても組織は痛くもかゆくもない。募集すればどんどん集まる」と男は言います。
最近はボスから末端まですべてアルバイト上がりという組織もあるそうです。いわば素人の詐欺集団です。「こっちは奴らの素性をすべて知っている。少し調べれば拠点もわかる。そこに乗り込んで詐取金を強奪する」
奪われたお金は犯罪で得た収益です。警察に被害を届けることはない。そこが狙い目というのです。
関東の暴力団組長は他人の運転免許証を持っていました。
免許証は運転の際に不可欠だし、重要な身分証明書でもあります。これがないと名義人はさぞ困るでしょうに。
組長の手元にある理由を聞くと「まあ、いろいろとあるので」と口を濁します。
食い下がってあれこれ聞くと、ぼんやりと理由がわかりました。犯罪にいったん引きずり込んだ人間をずっと今後も活用するため、ということのようです。
闇バイトに応じ、詐欺に加担した少年が身分証明書の画像をSNSにさらされたこともあります。犯行グループから離脱したことへの制裁とみられます。
暴走族リーダーから暴力団組員になり、その後暴力団を離脱して、現在は関東で飲食店を営む男性に話を聞きました。
最近、特殊詐欺にかかわって逮捕された少年と会ったといいます。ごく普通の若者ですが、ネットで「簡単なアルバイトがある」と誘われて応じたら、海外の拠点から日本に電話をかける詐欺グループの末端として使われ、詐取金回収役を担ったと。約束のアルバイト報酬は受け取っていないそうです。
男性には海外の詐欺拠点を仕切る知り合いがいます。海外にいる理由を聞くとその知り合いは「日本では取り締まりが厳しいから」と答えたそうです。
男性はいま闇バイトや特殊詐欺に興味を持ったり、関与したりした少年の相談に乗っています。これらで身を持ち崩す実態をたくさん見てきたから、救いたいと考えてのことです。必ず「闇バイトにワンチャンは絶対にない」と説いているそうです。
ワンチャンはない、すなわち「そんなうまいことはあり得ないよ」との説得です。裏社会の冷酷さ、狡猾さを知り尽くしている男性の助言が若い衆に届くことを願っています。
証言1の男性が言います。
「あまりの重労働と、ほんの少し残っている良心の呵責に耐えかねて私は途中で脱走したが、若い人は電話でお年寄りをだますことをゲームのように楽しんでいた」
どの口が言うのか、と言いたいところですが趣旨はわかります。自分は長く裏社会にいて半分犯罪者だが、将来ある若者がそれでいいのかとの思いでしょう。
目先のお金欲しさで誘いに乗って海外に渡り、おじいちゃんやおばあちゃんら人生の先達が懸命に貯めたお金をだまし取る。背後に犯罪組織がいることの想像すらできない。そんな少年が増えているのが現実のようです。
特殊詐欺の被害は増加の一途です。警察庁が2025年5月に公表した「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況について(確定版)」によると、2024年には2万1043件発生し、被害額は718億8000万円です。前年より266億円増えました。1日に1億9693万円もの大切なお金がだまし取られています。
被害者の65%は65歳以上の高齢者です。警察が「電話でお金云々はすべて詐欺」と繰り返し注意を呼び掛けているのに止まりません。
闇バイトや特殊詐欺に少しでもかかわって困っている少年や保護者のみなさん、いますぐ警察の相談窓口に電話をしましょう。♯9110です。発信地を管轄する警察本部の窓口につながります。
もうひとつ警察の電話を伝えます。「匿名通報ダイヤル」(0120-924-839)です。犯罪組織の捜査に役立つ情報の提供窓口です。闇バイトや特殊詐欺にはいま暴力団以外に「匿名・流動型犯罪グループ(通称トクリュウ)」が関与している、と警察は見ています。
その実態をつかむのに警察は難渋していて、広く情報を募っているのです。通報者の秘密は守られ、捜査に役立った情報の提供主には最高10万円が支払われます。さらに犯罪組織壊滅につながったと判断されれば最高100万円を得られます。
闇バイトや特殊詐欺なんぞに引っ掛かってびくびくするより、見たこと聞いたこと(間接的でもOK)を警察に知らせればワンチャン、きれいなお金を手にできるかもしれません。
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(元朝日新聞編集委員 緒方 健二)

広島市長、トランプ氏に被爆地訪問要請 「原爆発言」受け

【AFP=時事】ドナルド・トランプ米大統領が最近の米軍によるイラン核施設攻撃を1945年の広島、長崎への原爆投下を引き合いに正当化したのを受け、広島市の松井一実市長は2日、トランプ氏に被爆地を訪問し、被爆の実相への理解を深めるよう求めた。 松井氏は記者会見で、「被爆の実相を理解していない」「原爆が使用されれば敵味方の区別なく命を奪い、人類の存続にも関わると理解していないのではないか」として、被爆地を訪れ、原爆投下の実態を目の当たりにし、広島の心を感じてから発言してほしいと述べた。 米国は1945年8月6日、広島に原爆を投下。8月9日に長崎に原爆を投下した。8月15日に日本は降伏し、第2次世界大戦は終結した。 広島で約14万人、長崎で約7万4000人が亡くなり、その多くは放射線被ばくの影響によるものだった。核兵器が実戦で使用されたのは、広島と長崎のみ。 イスラエルによるイランへの数日間の攻撃の後、米国は今年6月22日にイランの核施設を爆撃した。 その直後、イランとイスラエルは停戦に合意し、12日間の戦争に終止符が打たれた。 トランプ氏は25日、ハーグで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で「広島や長崎の例を使いたくないが、本質的には同じことだ」「あれ(原爆投下)が戦争(第2次世界大戦)を終わらせ、これ(核施設攻撃)も戦争(12日間戦争)を終わらせた」と述べた。 トランプ氏の発言は被爆者の怒りを招き、広島では小規模なデモが行われた。広島市議会は先週、原爆使用を正当化する発言を非難する決議を可決した。 【翻訳編集】AFPBB News

石丸伸二を支持した女性(71)は「初恋」に落ちていた…政治に無関心だった人たちが「バズる政治家」にハマるワケ

(前編から続く)
――昨今、選挙ではヘイトスピーチや陰謀論、デマが横行しています。現状をどうご覧になっていますか?
本来、選挙は自分の考えや主張を自由に発言できる場です。ぼくは、その自由な場に惹かれて、25年も選挙取材を続けてきました。そうした場を悪用して、差別発言やヘイトスピーチを繰り返す候補者が増えたことはとても憂慮すべき事態です。
選挙は楽しい。ぼくは、ずっとそう言い続けてきましたが、選挙の現場で差別発言やヘイトスピーチに遭遇すると取材後も気分が落ち込みます。当事者でないぼくですらそうなのですから、ヘイトスピーチのターゲットになった人や、マイノリティの当事者たちは、外を歩くのを躊躇するほどの恐怖を感じているはずです。
選挙演説で、頻繁に耳にするデマの1つに「外国人に生活保護費が1200億円も支払われている」という言説があります。これは自民党の片山さつきさんの発言が基になっていますが、根拠はありません。統計も取っていない。
公職を目指す者として、候補者は社会の分断を煽るような発言は慎むべきですし、取材する側も当然、指摘し、批判すべきです。しかし外からその議論を見ている人は、選挙を争いの場として受け止めてしまう。その結果、有権者を選挙活動の場や、投票所から遠ざけてしまっているのではないかと感じます。
――選挙から足が遠退く人もいる反面、昨年の都知事選に立候補した石丸伸二さんには、2000人以上のボランティアが集まったと言われています。
石丸さんやNHK党、参政党のような新しい勢力を支えるのが、既存の政党に満足できず、自分たちの思いや考えを報じないオールドメディアに対して、憤りを覚える人たちです。社会に疎外感を覚えている支持者も少なくありません。
選挙の現場に行くとオールドメディアを批判する人たちにたくさん出会います。兵庫県知事選では、「立花孝志さんの主張を支持する人がこんなにいるんだから、真実に違いない。だって、あんなに自信満々話している立花さんに対して、オールドメディアは反論もできずに、ぐうの音も出ないじゃないか」と話す人もいました。
昨年の都知事選では、石丸さんのボランティアをした71歳の上品なマダムという雰囲気の女性は「まさか私が選挙ボランティアをするなんて思わなかった」と話していました。
「政治に興味はなかったけれど、YouTubeで石丸さんの動画を見て驚いたんです。石丸さんは古い政治家に対して、私たちが思ったことを忖度せずに言ってくれています。これは応援しなければと思いました」
ぼくが「政治的初恋ですね」と言うと「そうなのよ」と笑っていました。
石丸さんは広島県安芸高田市の市長時代に議会で居眠りする議員をSNSで批判したり、記者会見で記者と対立したりする様子がYouTubeの「切り抜き動画」で拡散されたことで有名になりました。石丸さんのやり方には功罪がありますが、YouTubeやインターネットを駆使して、選挙に関心を持てなかった層を掘り起こし、選挙の場に呼び込んだことは大きな意味があったと思います。
ただし、先月の都議選で石丸さんが結党した「再生の道」は共通の政策をつくらずに42人の候補者を立てましたが、みんな落選してしまいました。「再生の道」がやろうとしたことは、NHK党が打ち出した、小規模な政党や政治団体がNHK党のもとに結集し、国政選挙で協力する「諸派党構想」と重なります。
それなのに、政治的な初恋に落ちた人の目には、新しい政治家がいままでにない手法で既存の政党や政治家と戦っているように映ってしまう。その意味で、これから政治や選挙を知り、初恋に破れて、大人になっていく必要があります。
――失恋から立ち直り、大人になるためにも畠山さんがおっしゃる選挙漫遊が大切になるわけですね。
自分にとってベターな選択をするには、比較検討が不可欠です。だからこそ、選挙を漫遊して、複数の政党や候補者の政策や主張を聞いて、比較検討してほしい。
しかし基本的に各政党や政治団体が行うのは有権者の囲い込みです。自分の主張とほかの政党の政策を比較検討して投票しましょうという政治家はほとんどいません。これまで候補者や政党は、支持者という一途で周りが見えなくなる恋人をつくるような選挙活動ばかりをして、政策や主張を冷静に比較して判断する有権者を育ててこなかった。それが、日本で投票率が上がらなかった原因の1つです。
取材の現場で危機感を覚えるのは、候補者を実際に見て投票する人がとても少ないこと。
みんなSNSやネットの情報、既存メディアが報じたニュースで、その候補者の主張や政策をわかった気になってしまう。または、有権者から政治が遠くなって、政治家を手の届かないショーケースに陳列されたような特別な存在と感じる人が少なくありません。
改めて考えてみてください。候補者自身が発信する情報は、その候補者が見せたい一面に過ぎません。カタログのような選挙公報や、候補者のSNS、編集された報道だけで、自分の権利である一票を投じていいのか……。ぼくは常々、選挙は政策の見本市だと伝えてきました。選挙とは勝ち負けを決める場ではなく、社会課題を解決するアイディアを持ち寄る場だ、と。
選挙では自分の代わりに政治を任せられる人を選ぶわけですが、自分の代わりに、と一票を託せる候補が見つからないという人もいるでしょう。しかし複数の候補者の話を聞けば、一部に共感できる政策や主張に出合えます。
メディアが取り上げない“泡沫”と呼ばれるような候補者もみんなに知ってほしい主張があり、実現したい政策があるから、安くはない供託金を支払って立候補しています。なかには主要な政党の候補者とは比較にならないほどの熱量を持つ候補者もいます。彼ら、彼女らの主張や政策は社会に必要とされるアイディアの宝庫です。
主張や政策のすべてに賛同できなくても、共感できる内容は少なくありません。当選した議員が落選した候補者の主張を取り入れた政策に取り組むケースもあります。
当然ですが、政治家も人間です。その人間に政治を託していいのか、自分の目で見て判断していくしかありません。
何よりも、候補者たちは、有権者と触れ合うことで成長し、変わっていきます。街頭演説に足を運べば、あんなに嫌っていた政党の候補者があなたに寄ってきて「何かお困りごとはありませんか?」と聞いてくれるかもしれません。あなたの一言が、その政治家によって政策に反映される可能性だってあります。
当選後も、事務所に行って「ちゃんとやれよ」と声をかけることもできます。そうした有権者とのコミュニケーションが緊張感を与えて、政治家を鍛えていく。
あるいは、裏金疑惑で逃げ回っている議員がどんな顔で演説しているのか。その姿を見れば、その人間性を感じられるでしょう。実際に会えば、絶対に投票してはいけない人を発見できるかもしれません。YouTubeや報道だけを参考に投票して、「こんなはずじゃなかった」という後悔が減るはずです。
政治家はぼくら市民のために働く公僕です。もっといい働きをしてもらうためにも、有権者の側が、候補者に近づく必要があるのです。
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(フリーランスライター 畠山 理仁、ノンフィクションライター 山川 徹)

「だってたくさん再生されていたから…」新聞、テレビの選挙報道を信じない老女が「SNS情報」にのめり込んだ末路

――参議院選挙を前に、日本新聞協会は、メディアが公平性を過度に意識せずに、選挙期間中も積極的に報道するという声明を発表しました。背景には、不正確な情報によって選挙結果が左右される状況があるようです。
そもそも論として、ぼくには、オールドメディアと呼ばれる新聞や、テレビの報道は本当に公平だったのか、という疑問があります。
新聞やテレビが主に取り上げるのは、主要候補者ばかりです。確かに、主要政党の候補者をあつかう場合は、同じ行数の記事にしたり、同じ時間を使って取り上げたりして公平を意識したのでしょう。いえ、意識せざるを得なかった。そうしないと政党からクレームが入りますから。一方で主要候補者以外は、せいぜい名前や肩書、年齢くらいで、主張や政策を丁寧には伝えてこなかった。
とはいえ、それが間違いだと言っているわけではありません。各メディアによって、それぞれ報道のあり方や方針があります。そうした大手メディア以外の情報があったほうがいいだろうと考え、ぼくは「候補者全員に接触」を信条に選挙取材を続けてきました。
日本新聞協会の声明で注目したいのが、後半の選挙期間中も積極的に報道するという箇所です。裏を返せば、選挙期間中にもかかわらず、逆に選挙についての報道が減っているということです。
――それは、なぜなのでしょうか。
わかりやすい例が、昨年11月の兵庫県知事選です。選挙前、新聞やテレビは、斎藤元彦知事の批判を散々報じました。しかし県知事選が告示されるとパタッと批判しなくなった。それは、大手メディアが選挙に影響を与えるような報道を控えたからです。
加えて、新聞やテレビは、確かな情報だとしても、一度報じたニュースは基本的に繰り返しません。そこが、兵庫知事選で、オールドメディアが、SNSやインターネットに敗北した原因です。
兵庫県知事選を取材中に知り合った70代くらいの女性有権者がこんなことを話していました。
「オールドメディアは、自分たちにとって都合のいいことばかりを言っている。選挙前はあんなに斎藤さんを叩いていたのに、選挙に入った途端にメディアは何も言わない。斎藤さんが正しいから何も言えなくなったんでしょう」
NHK党の立花孝志さんは、元県民局長の不倫などを主張しましたが、オールドメディアは取るに足らないこととして放置したせいで、不確かな情報がどんどん拡散してしまった。
SNSやインターネットでは不確かな情報や、明らかなデマでも面白かったり、刺激的だったりすれば、何度も何度も投稿され、拡散されていく。記者が裏をとった確かな情報が、デマに押し流されてしまう。短い選挙期間中にデマを糾していくのは限界があります。その結果、投票の参考にすべき正しい情報が有権者に届かなくなってしまった。
オールドメディアは、これまで通り正しい情報を読者や視聴者に伝えるのが自分たちの役割だと疑いもしていなかった。SNSやネットの言説が、選挙結果を左右することはないだろうと軽視していました。しかしSNSやネットが選挙に強い影響を与えるようになり、メディアとしての役割を果たしきれなくなった。
兵庫県知事選で出会った女性に、ぼくはこんなふうに聞いてみました。
「オールドメディアは信じられないのに、なぜ、立花孝志さんが発信するSNSやネットの情報は信じられるのですか?」
ぼくの問いに対する答えが「だって、ものすごく再生されているじゃないですか」。
――信じる根拠が再生回数ということですか?
そうです。その女性に対して、ぼくはこう話してみました。
「86人の県議全員が信任しなかったんですよ」
「そうでしたよね……」と女性は一瞬考えたあと、こう続けました。「期日前投票で斎藤さんに投票しちゃいました」
彼女は、周りの人と政治や選挙について話す機会はないとも言っていました。選挙期間が短いから立ち止まって冷静になる時間もない。政治について会話しないから、ほかの人の意見を聞く機会もなかった。結局、オールドメディアに不信感を持っていた彼女はSNSやネットを信じるしかなかったんです。それは彼女だけではなかったはずです。その危機感のあらわれが、日本新聞協会の声明だったのではないでしょうか。
――SNSやネットが選挙に影響を与えるようになったきっかけを教えてください。
それはコロナ禍です。
組織や政党の支援を受けた候補者も、支持者を集めた政治活動や、街頭での選挙運動が制限されました。結果として候補者が戦えるフィールドがネットへと移行していきました。しかも、ネットは、選挙活動のハードルを下げました。
これまでは有権者は、街頭演説に足を運んでビラを配ったり、演説の手伝いをしたりして候補者を応援してきました。しかしネットはそうしたハードルを取っ払った。指先1つで、支持を表明できるわけですから。
選挙におけるSNSやネットの台頭を如実に示したのが、2023年の愛知県知事選です。
6人の候補者が出馬しましたが、衝撃的だったのが6番目だった候補者が8万8981票も獲得したこと。最下位の候補者が、東京ドーム約2杯分の有権者の支持を集めるような知事選はこれまで記憶にありません。従来のように、情報源が新聞やテレビだけだったら、こんな数字にはならなかったはず。最下位の候補者にこれだけの票が集まったのは、有権者がネットで情報を集めて投票の参考にしたからです。
となると、候補者もネットでの選挙活動に力を入れるようになり、言動や主張が過激化していく。そして兵庫県議会で、全会一致で不信任を突きつけられた知事が、SNSやネットで支持を集めて再選するという現象が起きた。候補者たちはその流れを見ているので、ネットでの活動がさらに過激化していく――というのが、選挙の現在地です。
――「候補者全員に接触」を信条とする畠山さんにとっても、不確かな情報をどう報じるのか、とても難しいように思います。
確かに、そこがとても難しい。
たとえば、史上最多の56人が立候補した昨年の都知事選では、木宮みつきさんがゲサラ法を実現させると主張しました。
――ゲサラ法ですか? なんですか、それは。
ぼくだけではなく、木宮さんの出馬表明の記者会見に出席した記者は、みんな困惑しました。
木宮さんによれば、ゲサラ法とは人類史上はじまって以来の徳政令で、すべての国民の借金、住宅ローン、カードローン、教育ローンなどを帳消しにする法律だそうです。ぼくはその財源はどうするのか質問しました。
木宮さんによれば、ディープステート(陰謀論のひとつで、国家の意思決定に影響を及ぼす闇の政府)によって奪われた金塊がみずほ銀行にあるそうです。
ぼくは『選挙漫遊記』で〈それは初耳です!〉と書きました。しかし選挙が壊れつつある現状を踏まえるともっと書きようがあったのではないか、そんなことは有り得ないとはっきりと読者が分かる表現にすべきだったのではないか、と反省しました。
兵庫県知事選でもそうですが、デマをデマだとはっきり否定しなかった結果、不確かな情報が広がって選挙に影響を与えてしまった。
木宮さんのケースで言えば、〈それは初耳ですね。何か証拠はあるんですか〉と聞き、彼女から〈証拠はありません〉という答えを引き出すまでを書くべきだったのではないか、と。
でも、その点では、オールドメディアの記者のほうが、悩みが深いかもしれません。フリーランスのぼくに比べると、新聞やテレビのほうが切り捨てなければならない情報や、無視しなければならない話が多いんです。
テレビ局や新聞社の記者がヘイトスピーチや陰謀論について語る候補者の第一声を取材したとします。番組では、陰謀論の部分をカットして、短く編集した映像を放送する。またはヘイトスピーチばかりでは記事にできないから、紙面に載せられるエピソードだけで記事を書く。
そうすると陰謀論を信じて、差別発言ばかりしていた候補者の記事や映像がまともなことを話しているように見えてしまう場合があるんです。しかも若くて見た目がシュッとしていると爽やかな候補者が組織などの後押しもなくて、1人でがんばっているというイメージがひとり歩きしてしまう。
だからこそ、いま、選挙報道には、記者の主観が求められていると感じます。公平な報道をどんなに意識したとしても、どうしても記者の主観は入ります。だとしたら、現場で取材した記者が、思いや感想をどんどん署名入りで発信していく。
文句を言われたり、クレームを付けられたりすることもあるでしょう。でも、そこに向き合うのが、言論の自由であり、記者やメディアの責任です。何よりも、それが、壊れかけた日本の選挙を救う方法なのではないでしょうか。(後編に続く)
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(フリーランスライター 畠山 理仁、ノンフィクションライター 山川 徹)